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第13章 ゴルフにおいて筋肉はどのように機能しているのか(その1)

さてものすごく久しぶりに「Search for the Perfect Swing」の翻訳を再開します。

セクション4 モデルタイプのゴルフにおけるプレイヤー側の諸要素

13章 ゴルフにおいて筋肉はどのように機能しているのか

 

この問題に関しては、これまで行ってきたモデルのパターンの分析が直接役に立つこととなる。

ゴルファーのハブの動作、またそれに先立つモデルのセントラルピボットについての考察を振り返るなかで、スイングにおいてボディの他のパーツがどのような働きをしているかを考える事は、ともするとこれまでの「モデル」至上主義から逸脱するように見えるかも知れない。

率直に言えばそうなのだが、しかし第七章「ボディ全体をモデルのパターンにフィットさせるということ(その2)」の後半部分を見ればわかるように、このことはモデルの働きによって制御されることをやめることを必ずしも意味しない。むしろ、モデルのスイングの働きは、ボディ全体がゴルフのスイングにおいて行っていることについての原則的な意味をなしているのである。

つま先からクラブヘッドまでに通じる運動連鎖

ここでは、ハブのアクションに最大限のパワーを投入するためには、時間差のある運動連鎖によってそのパワーを作り出す事が必須であり、そのハブの動作もまた時間差のある運動連鎖を伴ってクラブヘッドをインパクトに向けて動かしていくことが必要と考えられる。

この際、モデルのアクションは中央のピボットによって始動しているように見える。しかし実際には、人体の構造上、必要とされる大きな回転力を生み出すためには、「スイングしているモデル」におけるゴルファーのアクションは、その特定のポイント、すなわち両足から始動しなければならない。スイングおいて発生する全ての運動エネルギーの源は、両足と地面の間の摩擦を活用して発生している(もしこれを疑うのであれば、つるつるの氷の上でフルスイングをしてみることだ。)

厳密には、ゴルファーがボールを打撃する際には、地球の自転の速度、あるいは角度を変化させていると言える。もし世界中のゴルファーが東の方向に伸びるフェアウェイに向かって300ヤードのドライブを一斉に放ったならば、20京分の一秒ほど地球の自転の速度を落とすことが出来る。実際には空気抵抗が放たれたボールの速度を低下させ、自転を遅らせる方に働く力が瞬時に無効化されてしまうので地球の自転の速度はすぐに元の速度に回復してしまうだろう。何が言いたいかというと、ボールを遠くに飛ばすという行為には、筋力と、地面の摩擦力の伝達の双方が必要であるということである。

とはいえ、実際にボールを飛ばすわけでもない素振りにおいてすら、クラブを一定の方向に振るという行為には、地面を動かそうとするチカラが働いているのである。

第七章で述べたように、ゴルファーのつま先からクラブヘッドにかけての全ての部分において、動作の発動には厳密にコーディネイトされたシーケンスが必要となるが、つまりこれはスイングのシステムにおける全てのパーツは先行して動いているパーツに引っ張られて動いていることを意味している。ならばあらゆる優れたゴルフスイングにおいて、これが正しく発動しているはずである。しかしこれをゴルファーが自身のスイングにおいて達成できるかは、個々のパーツの発動をスムースなものにできるかにかかっているのであり、そしてそれはさらに個々の筋肉の働きにかかっていると言える。そして神経のシステム、あるいはその時の精神状態までもが相互に影響を及ぼしている。

筋肉のアクションについて

しばしば言われていることに、「体幹の大きなバネを捻転させる」ことによってパワーを生み出すというものがあるが、これは実際には完全な勘違いである。

理由の第一にあげられるのは、そもそも人体の筋肉というのは、それほど弾性のあるものではないということだ。筋肉は伸ばされれば、収縮するように指令が発せられるまで、伸ばされたままである。トップオブザバックスイングにおいて、神経や腱が伸ばされている際に幾ばくかの弾性を有する事は事実だが、これがフォワードスイングにおいてパワーを付与することに貢献する度合いはほぼ無視してよいレベルでしかない。むしろフォワードスイングにおけるパワーは、筋肉の能動的な使用によって供給されるのだ。

もう一つの筋肉の重要な特性は、筋肉というものは「収縮する」際にパワーを発揮できるのみであって、自らの働きで「伸長する」ことは出来ないという点である。筋肉は、人体が運動しようとする際に、骨をレバーとして使用することで機能している。よって人体の筋肉の構造は、数ある動作をバランスの取れた静的なものにするために、必ず対照的な、ペアの配置になっていることが必要となる。どのような動作においても、ほぼ常に複数の筋肉がグループもしくはセットとなって機能しており、よって明らかに単純な動作であっても、本人の想像を遥かに超える種類の筋肉群が同時に機能することで動作の安全性を確保しているのである。

それら筋肉群は、脳から神経を通じて送信される、単一あるいは複数の組合せによる電気信号によって制御されており、また筋肉群は同等に高度に組み合わされた情報を脳に送り返すことで、その位置や緊張度を伝達している。こうした機能が、単体あるいは複数が高度に組み合わさることで、運動の作用やパワーを作り出すためのエンジンを、多様かつ繊細に制御しているのである。

さらなる筋肉の特性は、その関連性である。筋肉が生み出すパワーは、重量あたりの収縮の速度に比例する。一般論として、大きな筋肉で生み出されるパワーは、その活動がゆっくりとしたものである場合に効率が最大化されるのに対して、小さな筋肉は速く動かした時に効率が最大となる。

よってトータルでの運動性能を最大化するには、大きな筋肉には大きな負荷をかけてゆっくりと動かし、小さな筋肉は負荷を少なくして速く動かすといった、それぞれの機能の組合せを最適化することが必要である。

適切なギアに筋肉をコーディネートする

筋肉の稼働を意識的に最適な状態にすることは、三段階のギアを持つ自転車の操作に似ている。平地では、自転車を相応のスピードで走行させることができると同時に、トップギアに入れることで最小限の労力で移動できることがわかる。上り坂になれば、ペダルを漕ぐための負荷が増え、スピードが落ちるために、一段階下のギアに入れることで速度を維持することが容易になることがわかり、さらに上り坂が急になれば一番下のギアに入れることが必要になる。そして最終的には自転車を降りて押した方が楽になる場合もあるだろう。

つまり優秀なゴルファーは、直面した状況に合わせて全ての稼働可能な筋肉群をバランスのとれた順番で作動させることができるのである。こうしたゴルファーは、脳から全身の神経に至る中心的な支配系統を、求められた状況に合わせて最適なギアの組合せで制御できるようにトレーニングを積んでいるのである。

何らかの技術に長けているということは、こうした機能の練度が高いということと同義であると言って良い。筋肉の使用における順序や実用性をコーディネートすることは、パワー、正確性、コントロールの繊細さなどの全てを決定する。

どの筋肉がパワーを供給するのか

ゴルフのスイングにどの程度のパワーが必要となるのかは、測定によってほぼ完全に計算することが可能になっている。ドライバーのヘッドがおおよそ7オンス(約200グラム)であることは周知の事実であり、一般的な上級者ゴルファーがトップの静止状態からインパクトまでにヘッドをおよそ100マイル(44.44m/s)まで、0.2秒で加速させることもわかっている。これらの事実から、クラブヘッドに掛けられているパワーは、およそ1.5馬力であることが計算できる。

もちろん、インパクトに達した時点で動いているものはクラブヘッドだけではなく、シャフトや両腕なども動かされている。実際にはボディ全体もターンしているだろう。当然これらにもパワーが供給されていると考えるのが自然だ。人体の各部位の重量は人によって異なり、またインパクトに向けてそれらをどの程度動かすのかも一定ではないため、ここで発生しているパワーを計算することは容易ではないが、少なめに見積もってもやはり1.5馬力程度のパワーが必要であると考えられる。よってダウンスイング全体で必要なパワーは、およそ3馬力からそれ以上ということになる。

これらのパワーは筋力から供給されなければならないが、そのために筋肉がどのくらい関与しているかも計算が可能だ。前述したような、適切なギアの使用の組合せを行えば、筋肉1ポンドあたり、8分の1馬力のパワーを供給できることがわかっている。平均的な男性の場合、両腕で稼働させることができる筋肉はおよそ20ポンドであるが、これも前述したように筋肉とは反対の動きをする筋肉同士の組合せで機能するため、実際にパワーを作り出すと換算される筋肉の量は半分の10ポンドほどになる。

つまり、おおざっぱな計算ではあるが、両腕で作り出すことが可能なパワーは多くとも1.25馬力程度にしかならず、またダウンスイング中に常時この最大値を獲得出来るわけではないため、両腕だけで必要なパワーをまかなうことは出来ないのである。よってもし我々が34馬力程度のパワーを捻出しようとするならば、両脚、あるいは体幹といった、人体の部位の中で最大の筋肉のパワーを使用しなければならないことは明らかである。実際、両脚には先ほどと同様の計算をすれば40ポンドほどの筋肉があり、これは2.5馬力からそれ以上のパワーを作り出せると計算できるのだ。

従い、ゴルフスイングにおける詳細な動作を検討するまでもなく、ロングドライブに必要なパワーのメインソースは、両脚や両ヒップの大きな筋肉によって構成されているという原則的な事実に到達する事ができる。

しかしこのことは、両手、両腕、両肩あるいは特定のその他の部位が重要ではないと言っているのではない。しかしこれらの部位が重要であるのは、あらゆる部位同士の連携動作のパフォーマンスは、それらのうち最も弱い部位を反映したものとなる。間違えてはいけないのは、両脚、両ヒップの大きな筋肉群はスイングにおける「エンジン」であり、一定量のパワーを付加する可能性はあるものの、両手、両腕などの小さな筋肉群は「トランスミッション」であるということだ。よって両手が強いことはおそらく強くヒットすることに必要なものではあるが、主たるパワーの源にはならないということだ。

もちろん画像は本文と関係ありません。

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