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第十六章 手首のアクション「スクエア派」と「ロール派」(その2)

優位性の選択における問題

ゴルファーによるリストアクションの選択は、当然のことながらオープン、スクエア、シャットの三つに厳密に限定されるわけではない。ゴルファーは「極端なオープン」から「極端なシャット」の間でどのようなバリエーションでも選択することが可能である。しかしこの選択は、「オープン」を選択することでクラブヘッドのスピードを増加させる、あるいは「シャット」を選ぶことで正確性を向上させることの間の、単純な妥協の産物ということには滅多にならない。事はそれほど単純ではない。

一つには、「シャット」の手法がスイングにおけるエラーを最小化できるのは機械的な感覚においてのみである。この手法における手首の動作は、多くの人にとって不自然で、違和感のあるものであり、「オープン」の手法を選択した場合よりも実行時のヒューマンエラーを招きやすい可能性もある。従いそのように感じてしまうゴルファーにとっては、「シャット」の手法は、機械的には信頼性が劣る「オープン」の手法よりも、むしろスイングエラーの発生およびそれに伴う一貫性がえられないと感じる場合がある。

いま一つの厄介な問題は、使用する手首の動作のタイプが、それに伴うボディ側の動作に影響を与えることである。 従いあるゴルファーにとっては、「シャット」の手法を使用することに伴う、より強いボディアクションのために、「オープン」の手法の場合よりもヘッドスピードが速くなると感じる可能性もある。 

やや複雑な理由から、極端な「オープン」および「シャット」の手法における望ましい特性の「良いとこ取り」を簡単に行うことはできないと考えられる。つまり、極端なロール(フェースはオープン)を行う場合、下半身からのピボットで手首の開放のパワーを引き出しているため、体幹から大半のパワーを引き出す脚、ヒップ、および上半身のアクションに重ねることはできないのである。そして、大半の「ローラー」はショットに向けて自分のボディが向かっていくことを実感するようになり、また大半の「シャット派」の体幹を捻ったプレイヤーは、ショットに向けて手首を使用していることを実感するようになるが、この二つの感覚が相反するものであることを受け入れざるを得ない。結局ゴルファーは試行錯誤によってしか、二つの手法における長所と短所のどのようなバランスが彼にとって最善なのかを判断することはできない。

重要なことは、これらのどの手法をどの程度採用するにせよ、それが間違っているというわけではないことだ。もちろんこれには「スクエア」の手法でも同様である。おそらく「シャット」の手法に傾倒するほど、筋力のあるアスリート的な、つまりプロに向いていると思われる。充分な筋力を獲得するためのトレーニング、そして背中の骨格および筋肉への負担という代償を支払うにせよ、「オープン」な手法よりも正確なラインで、何度でもボールを打撃していけることが可能になる。一方「オープン」に傾倒していくことは、アスレチックでも強靱でもない、たまにしかプレーをしないようなゴルファーに向いている可能性がある。

しかしこれらの議論はあくまで一般論である。それぞれの手法における長所と短所の、最適なバランスとなるポイントを見つけること、あるいは全てのショットに同じ手法を用いるのか、また特定のショットの目的によって異なる手法を選択するのかなどは、すべてそのゴルファー個人の責任にかかっている。またそのゴルファーがどのようなフィールドでプレイするのか、どの程度の野心を持って、あるいは年間どのくらいの回数をプレイするのかによっても変わってくるだろう。

アドレスポジションとロール

もう一つの要因にもふれておきたい。強いロールを伴うスイングの場合、アドレス時点ではわずかに手元が低くなる傾向があり、その結果左腕とクラブシャフトでできる角度は狭くなる。いっぽう、ロールが少ないプレイヤーの場合、逆に手元が高くなる傾向があり、真後ろから見た場合、アドレス時点で左腕とクラブシャフトがほぼ一直線になる。

前腕の入れ替え

また同様に、インパクトを強いロールで迎えるプレイヤーはボールを打った直後の早い段階で前腕が入れ替わる(左腕を右腕が追い越す)ことになり、それに伴ってクラブヘッドのロールがフォロースルーに向けて両腕をリードしていく形となる。ロールが少ない状態でインパクトを迎えるということは、フォロースルーにおけるロール量も減少することを意味し、減速するクラブヘッドがフォロースルーに向けてボディをリードしていく形となる。この方法では大きなボディのアクションとそれに伴う「プッシュ」する両手のアクションと相性が良く、「ロール」の方法における「開放する」、あるいは「はじく」様なアクションとは正反対のものとなる。

しかし繰り返しとなるが、全てのゴルファーは主要なバリエーションから機械的に最も再現が容易なフォームを開発する上での個人差が存在して良いことはこれまで述べた通りである。極端に言えば最も単純なアクションから、最も過剰なアクションまでの全てのバリエーションが採用可能であるが、当人にとってのスイングの単純性が失われるほど、それがゲームで機能する可能性も減少する。

始動とロール:分析の要点

このトピックから離れる前に、ゴルファーが用いる前腕のロールの量、およびそれがどの時点で発生し始めるのかが、どの程度そのプレイヤーのスイングに構造的な影響を与える可能性があるのかについて触れておこうと思う。

こうした前腕のこれまで見てきたように、「スクエア」の手法においては、フォワードスイングの開始時点でフェースはプレーン内でほぼフラットな上体になっている。つまり「スクエア」とは、テストロボットのように、プレーンに対して常にフェースが垂直な状態を保ち続けるということを厳密に意味しているわけではない。そのような動作は人体には不可能である。人体の構造は表現がしがたいほど複雑なのだ。

しかし「スクエア」の手法では、バックスイングの始動において、最初の30cm程度、前腕の旋回によるフェースが開く動きを全く行わない、あるいは極めて少ししか行わない、とは表現可能である。この場合プレイヤーはハブの中心からのピボットによるシンプルなローテーションを行う代わりに、第六章にて言及されている、左腕を持ち上げることによる基本的な「インプレーン」の始動を行う。第六章で指摘したように、このとき「二つの動作のコンビネーション」が発生するために、クラブフェースは外側にターンをし始める、つまりにプレーンに対して90°の状態から少しずつ角度を減らしていくことになるが、この度合いは左前腕の旋回の量に比例するため、それほど急激なものではない。

こうした前腕の旋回は、通常アドレスポジションからのクラブの始動を、主に両手および両腕から行うプレイヤーに求められるものであり、いっぽう「スクエア」な手法の始動は、クラブ、両腕、両肩が「ワンピースの動作」となった状態で行われる。

従い、典型的な「スクエア」の始動で特徴的となるのは、始動直後から左肩がプレイヤーのアゴの下に潜り込むように下方に旋回していくのに対し、「ローラー」の始動ではその動作の主体となっているのは両腕である。

それぞれの始動直後の状態をやや誇張して表現したものが16:4のイラストである。

16:4 「スクエア」で「ワンピース」な始動(左)と、「ロール」による始動(右)の比較。スクエアな始動では左肩が始動の開始と同時に右サイドに動くが、クラブフェースが外側を向いていく(ターンする)量は、アーク内のヘッドの移動量に対しては非常に少ない。

 

このイラストに右腕の存在が加わると、「両腕のみ」による始動が、なぜ通常フェースのロールを伴うのかについての一つの理由が見えてくる。すなわち、単純に右腕が移行すべきスペースがなくなってしまうのである。左側のイラストでは肩と両腕でできる三角形の形に変化はないが、右側のイラストでは、右肩から右手の間の距離は減少せざるを得ず、つまり右肘を曲げることが必要になる。

クラブフェースまたは左手甲を「スクエア」のポジションにキープしようとすると、通常右肘は外側方向に曲がっていく傾向になり、「フライングエルボー」などと呼ばれる、かなり望ましくない状態のトップポジションに移行する。一方、左前腕を「オープン」になるように旋回させると、右肘を体幹の側面に近い状態に保つことが可能となる。いずれにせよ、左腕がそのように胸部を横断して体幹の近くを振られるのであれば、解剖学的に最も単純な動きは、左手のひらをやや下向きの状態にしながらローテーションを行う動作を伴うのであり、つまりクラブフェースをオープンに回転させていくことになる。

この早い段階で両腕が胸部を横断し、また前腕のロールを行う動作では、手首のコックも早い段階で発生する傾向がある。これはクラブヘッドをプレーンに乗せる(もしくはクラブヘッドがプレーンに乗る傾向がある)ために、また手首が非常に早い段階でコックをすることが可能なポジションに位置しているためである。

やがて左肩が下に曲がり始めるにつれ、プレーヤーはクラブをオンプレーンに保つために前腕をさらに旋回させることが必要となる。次に、プレーヤーの手首は、クラブフェースが非常に開いた状態で、「ローラー」の特徴とも言える「カップ」ポジションでのコックを行う。ここでクラブのトゥはスイングプレーンの下方を指し、クラブフェース回転量はトータル120°程度に達する。よってフォワードスイングの最中にそれを再びロールバックしてくることが必要となるのだ。

このようなローリングアクションは、必ずしも早期にリストコックを行うことが必須であるとは限らない。現実に、ほぼローリングをせずに「早期のコック」を行うことも可能ではある。しかしその場合、クラブヘッドをオンプレーンに保つためには、左手首を手のひら側にヒンジする(アーチ)「掌屈」する事が必要となる。ダンテとエリオットが著書「勝利のゴルフのための四つのマジックムーブ*」で推奨している方法がこれにあたる。ダンテとエリオットは、この方法には特定の利点があると主張しており、そのうちのいくつかは確かに合理的と考えられる。しかし一般的に言えば、(コックの動作に加えて)肩を回す、腕を上げる、つまり合計で3つの意識的な動作を行う必要があるという複雑性が付加されることとなる。一方、最も単純な動作として我々が推奨しているスイングは、スイングの勢い自体が手首を自動的にコックするという手法である。

「ワンピース」の「スクエア」な始動は、バックスイングのアークを自然に大きなものにすることにもつながる。バックスイングのアークが大きくなることそれ自体には、ただちにメリットがあることにはならない。しかしそれによって、バックスイングのトップにおいてショルダーターンが最大に行われることを確実にすることを、単に左腕を胸部を横断して引っ張り上げるやり方とは異なる方法で可能にしている。その結果スイングのハブ、あるいはセントラルピボットを静的な状態に保ったまま、ボディ全体を真のスイング動作に引き込むことが可能になる。

手首の動きとモデル

16:5 上から、シャット、スクエア、オープンな手法の始動。ここのプレイヤーのスイングの進行状況は同じであるが、F.イシイ(上)はフェース面をシャットにする最大限の努力を行っており、ビル・コリンズ(下)はアメリカのライダーカップ出場選手であるが、ある程度自由にフェースがオープンになることを許容している。その中間にあたるのがセバスチャン・ミゲル(中)の、我々が「スクエア」と評している始動である。それぞれのプレイヤーの左から三枚目の写真が、それぞれお手法の違いを表している。

 

いっぽう、個々のリストアクションのあまりに多すぎるバリエーションを分析することによって得られるメリットにも限界はある。これらはすべて、一つの基本的なルールによって統治されている。すなわち、すべての手首の動作は、スイングの全体像に貢献すべき存在であり、したがい個々のプレイヤーにとって最もシンプルかつ最も効果的な方法でなければならないとうことだ。

個人にとって最善の方法は、そのプレイヤーのパワー、しなやかさ、体格、先天的あるいは後天的な手首や手の強さ、年齢、さらには気質など、あまりにも多くの要因によって決まってくる。

よって一つの絶対的な方法といったものに全個人を当てはめることは不可能である。どのようなグリップ、手首のアクションであっても、プレイヤーのスイングを最も簡単かつパワフルで、再現性のあるものにすることは可能である。一般的なパターンにおいて、モデルのシーケンス及びタイミングを実現できているやり方が、当人にとっての良いグリップあるいは良い手首のアクションということになるのだ。

 

*ヘインマン出版 1963

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