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第二十一章 グリーン上の科学(1)

第二十一章 グリーン上の科学

結果がメソッドやロジックと何ら関係がないように見えるゴルフの一部、つまりパッティングというゲームについて、実際のところ我々科学者が何かを低減できる余地はあるのだろうか?パターの調子さえよければ、そのプレイヤーは科学やゴルフの専門家にどれだけ逆らったとしても大金を稼ぐことが可能なのだ。

しかし、ボールがグリーン面を横切っていく動作を分析すること自体はそれほど困難なものではない。問題は、そのプロセスを開始しなければならないのは極めて人間的な「ゴルファー」であるということで、彼がどれだけニュートン物理に精通していたとしても、予想通りのコースにボールを転がすことは依然として困難に感じられるかもしれない点である。

ここにはごくわずかな肉体的労力しか必要とせず、一見して、あるいは実際にも非常に単純な作業であるという知識も全く役に立たない。

とはいえ、科学がこのパッティングというゲームについて役に立つ、あるいは少なくとも多くのゴルファーを混乱させている複雑な誤解についての一部を一掃するだけのいささかの余地はある。これらを取り除くことによって本質的な課題に集中することを促し、パッティングにおける問題を少なくできる可能性はあるのだ。

パッティングのメカニクスの 3 つの部分

ドライバーショット、あるいは他のいかなるゴルフショットとも同様に、パッティングには三つの独立したプロセスが存在すると考えられる。すなわちクラブフェースの適切な部分でボールを打撃し、正しい方向に、正しい速度でボールを動かすと言うことが全てである。パターとボールのあいだにはインパクトの瞬間があるが、最終的にはこれらのプロセスがグリーン上でボールを転がしている。

最初のプロセスである、パッティングの技術そのものは、当然のことながら機械的側面によってのみ構成されているわけではない。心理的、解剖学的、そしておそらくもっとも重要なメンタルの側面が影響している。

しかしここでは、まず純粋なメカニクスの側面について議論をすすめていくために、インパクトについてから始めたいと思う。インパクト時に起きていることは、明かにボールがグリーン上を転がっていく様子に影響を与えている。一方でインパクトは、どのようなパットであれ、最良の打撃を行う方法も決定している。テクニックはそれ自体が目的なのではなく、望ましいインパクトの機械的要件を達成するための手段に過ぎない。これは全てのゴルフのショットにおいても同様のことが当てはまる。クラブヘッドとボールが実際のコンタクトを迎えているときに、何が望ましく、何が望ましくないのか、または何が可能で、何が不可能なのかについての明確なアイデアを持つことで、クラブをスイングする最良の方法について考案、理解をすることをりはるかに容易にすることができる。

一瞬のインパクト

パットでのインパクトについて理解すべき最も重要なことは、基本的にはドライバーのインパクトと同じだということだ。事実、それは非常に短い時間のあいだに起きている。そのため、第22章でも説明したとおり、パターヘッドはボールとのコンタクト中、あたかもシャフトとつながっていない状態かのように動くのだ。ヘッドとボールがコンタクトしている時間は、ロングパットの場合で(ドライバーショットと同様)およそ0.0005秒、またショートパット(タップインなど)の場合で0.00075の間になる。このことは、例えば6フィート(1.8m)のパットの場合で、ボールとのコンタクト中にパターヘッドが動く距離はおよそ40分の1インチ(0.62ミリ)ほどでしかないことを意味する。

これらの数値は理論上の予測値だが、チームはそれらを実験的に検証した。ボールとクラブフェースの接触時間は、パターヘッドと特別に用意されたボールの間で、コンタクト中に電流が流れ、コンタクトが終了すれば電流が遮断する手法を用いて、その時間を記録することによってチェックされた。距離の測定については、機械によってスイングされたパターの、インパクト後のわずかな距離にしっかりとした木製のブロックを置き、フォーロースルーを停止させることで、ボールの転がりとの影響を確認しながら測定を行った

この実験によると例えば、平均的な速さのグリーン上において、パターヘッドが毎秒12フィート(3.6m/s)のヘッドスピードで、20フィートのパットを行う場合、ヘッドとボールのインパクトにおけるコンタクト時間は0.0006秒であり、コンタクト中のパターヘッドの移動量は0.07インチであることが判明した。

この実験、および本章のこれ以降の議論に必要な実験で使用されたパターのスイング機械は、西部イングランドの熱心なアマチュアゴルファーであるトレバー・ショフィールドによって製造されたものである。基本的な構造としては、パターのライ角に合わせたプレーンで、パターを振り子の動作でスイングさせるものである。ヘッドを毎回同じ位置にバックスイングしてからリリースを行うため、この実験ではパターがほぼ毎回同じ打撃を行うことができる。

21:1 今回に実験に使用されたパターマシン。このマシンを制作したトレバー・ショフィールドの、トゥよりもしくはヒールよりで打撃されたパッティングが、どのように距離をロスし、また意図した打ち出し方向から逸脱していくかのデモンストレーション。

パットは最初に滑ってから転がる

パッティングのテクニックに重要な影響を与えるパッティングのインパクトのメカニズムのもう 1 つのポイントは、どのような実用的な目的においても、通常のパターではボールに有益なスピンをかけることは不可能だということだ。通常のパターでは数度(3°〜4°程度)のロフトが付いており、非常にわずかとはいえバックスピンを付与することはできるが、それは毎秒12回転を超えるものではなく、パットに与える影響はごくわずか、あるいは全くないと言ってよい。

この理由は、パターで打撃された直後のボールのグリーン上における動き方にある。打撃された直後のボールはすぐに転がるのではなく、最初は滑っている。そうなるにつれ、ボールのカバーと芝のあいだの摩擦が発生してボールの速度は落ちるが、この摩擦はボールの表面に作用するために次第にボールが回転する作用に変化する。それにも関わらずボールが当初は滑り続けるのは、グリーン上を横切るボールの速度に回転野速度が追いつかないためである。

しかし摩擦力は継続的にボールの回転力を増加させつつ、ボールの速度を低下させるため、二つの速度が「一致」する瞬間がすぐに訪れる。そうしてボールが「滑る」のではなく、「転がる」のにちょうど良い速度に回転し始める。

この時点より以降、ボールが地面と接している地点で滑ることはなくなり、摩擦もなくなってボールは止まるまで転がり続ける。一般論として、転がっているボールの抵抗は、滑って摩擦力の抵抗を受けている状態よりも遥かに小さくなるため、滑っている状態と比べて遥かにゆく売りと減速をしていく。この速度の経過をグラフにしたものが21:2の図である。

21:2 5フィートのパット行った際のボール速度と回転量を表したもの。ボールは無回転で毎秒7フィートの速度で打ち出される。打ち出し直後はボールと地面の摩擦が大きいため、ボール速度が減少率が大きくなると共にボールが回転する作用を与え続ける。従いボールの全体速度が低下しながら、回転速度が上昇する。ちなみにボールの回転速度5フィートは、毎秒12回転に相当する。やがてボール速度と回転速度が同じになると、ボールは「滑る」ことをやめて、単に「転がる」状態に移行する。(通常は)「滑る」際の摩擦による抵抗よりも、「転がる」際の抵抗の方が少ないため、ボール速度の減少幅も低下する。この実験ではボールの総移動距離はわずかに5フィートに届かなかった。

ここで注目すべき点は、ボールの回転速度がピークに達するのは、ボールのスライドが停止した瞬間であるということである。(これは明白な事実であり、パッティングの側面に重大な影響を及ぼすわけではないが、第23章で触れるフルショットにおけるボールへのスピンの活用についての説明を理解するのに、非常に重要な事象であることを覚えておいてほしい。)

ボールが転がり始めるより前にどの程度滑るのかについては、当然のことながらグリーンの表面がどのような状態になっているのかに大きく影響される。しかしスピンのない状態でボールが打ち出された場合、滑っている状態でボールが進む量は、大まかに見積もってパットされたボールの総移動量のおよそ20%ほどである。例えば20フィートのパットでおよそ4フィートほどである。5フィートのパットでさえ、最初の1フィートは滑っているのである。

どのような強さで打ち出されたのかに関わらず、ボールが回転し始める前の移動量は、グリーン表面の粗さに影響されることが明らかだが、ボールが転がり始めるときの速度は影響を受けない。例えば、20フィート/秒で打ち出されたボールは、フェアウェイの様にラフな状態のグリーンであろうと、ビリヤード台のように滑らかなグリーンであっても、ボールが転がり始めるのは14.6フィート/秒まで速度が落ちた時点である。

この事実の要点は、どのような種類のパットでも、あるいはどのように打ったとしても、ボールはホールに到達する遥か以前の、全移動距離のごく一部を過ぎたあとは、ただ「転がる」だけだということである。従い、パターによって加えられる可能性のある、わずかなトップスピン、バックスピン、あるいはサイドスピンは、ボールの軌跡の大部分、あるいはホールに飛び込む可能性にも全く影響しないということである。図21:3は、三種類のパッティングが全て毎秒17フィートの速度で打ち出されているが、スピン量ゼロ、バックスピン量2.2rps、トップスピン量2.2rpsで変化を与えた際の転がりの様子を図式化したものである。これらの実験は、ロフトのないパターで毎秒1112フィートの速度で、水平、(スピン量ゼロ)、ダウンブロー5°かつフェース向き水平(バックスピン)、アッパーブロー5°かつフェース向き水平(トップスピン)にすることで行われた。ここで発生しているスピンは、一般的に正しく打撃された(トップではない)パッティングにおいて発生すると考えられる回転量の最大値である。

21:3 パッティングにおいて、ボールにかけられた回転がパットの総移動距離に与える影響は少ない。全てのボールは毎秒17フィートの速度で打ち出されているが、無回転(上)、2.2rpsのバックスピン(中)2.2rpsのトップスピン(下)の、異なる回転が加えられている。実線の矢印は、ボールが「滑っている」パートを表しており、いずれのケースでもボールは当初「滑る」フェーズを経て、少しずつ「転がり」が増え、最終的には純粋に「転がる」だけになる。点線の矢印は純粋に「転がる」フェーズを表している。双方毎秒2.2回転というのは、通常の状況のこの距離のパッティングで与えられる回転量の最大値と言えるが、ボールの総移動距離に大きな影響を与えないことがわかる。これらの距離、速度及びスピン量は全て計算値であるが、良い状態のパッティンググリーンを想定したものである。

実質的に考えて、図の示す通り、三つのボールの最終結果はほぼ同じである。

しかし実際のグリーン上では、この通りの結果にならない可能性がある。実際のパッティングにおけるグリーンでは、最後の数インチを除き、ボールは芝生の最上部を転がる傾向にあり、またわずかにバウンドしながら進んでいる傾向さえある。パターのフェースからボールが数インチ離れたところから、ボールは芝生の中を寄り沿い、静止状態よりもわずかに持ち上げられたところを転がっている。

このバウンドはパターの打撃の直後必ず発生しているが(19677月ゴルフワールド誌に掲載のR.D.スミス氏の記事を参照のこと)、ほとんどのパターに数度のロフトがあるのは、このバウンドの影響を最小限にするためである。

こうしたパターヘッドの移動方向もわずかではあるが影響を与える可能性がある。とりわけ、いかなるパットでもダウンブローに打たれた場合は、通常よりもボールがジャンプする傾向が通常よりも高くなり、そのために転がり始める状態に落ち着くまでの挙動が予期せぬものになる可能性が高い。ボールの中心よりも充分に上( 3 分の 2)でボールを打撃した場合、理論上はパターのフェースを離れた瞬間から転がし始めることが可能だが、これは実際にはハーフトップであり、ビリヤード台のような硬い表面の場合には有効でも、ゴルフのグリーン上のような柔らかいところでは効果がない。実際には、グリーン上であれば個々でもボールは打ち出し直後にジャンプすることになる。

したがって、パットにトップスピン (またはバックスピン) を与えるための意図的な努力は、少なくとも、ボールの動きに対するスピンの影響を考慮すると、あまり価値がないという結論にならざるを得ない。ボールにスピンをかけようとする試みがあらゆるプレーヤーのパッティングストロークを変化させる可能性がある限り、それがパッティングの改善につながる余地はあるものの、これはテクニックの問題(後述)であり、スピンによる影響によるものではない。

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