サイトアイコン 大庭可南太の「ゴルフをする機械」におれはなる!

第二十一章 グリーン上の科学(2)

パットをスライスまたはフックさせることはできない

パットにおけるサイドスピンは、トップスピンまたはバックスピンとほぼ同じカテゴリに分類される。パターのフェースを斜めに急角度に横切るように使うことをすれば、それよりも多くの回転をかけることができるかもしれない。しかしその効果は依然として無視できるレベルである。繰り返しになるが、パターによって打ち出されたボールは、最初のわずかな距離を除き、グリーン上を「転がって」しまうためだ。

理論上は、ボールが打ち出された直後の「滑っている」状態のときに、ボールにカーブ軌道を持たせることは可能かもしれない。しかしこれが可能であるのはトップスピン、またはバックスピンをかけるのと同時にサイドスピンを発生させ、ボールの打ち出し方向と平行な回転軸でボールを回転させる場合、つまりライフルの弾丸と同じような回転をかけられる場合のみである。しかしこれをパターという道具で行うことはほぼ不可能である。つまりグリーン上を自由に転がっていくボールに対して、効果的かつ規則的にボールを曲げる作用を与えることで、フックもしくはスライスするようなサイドスピンを発生させることは極めて困難である。

少し考えれば、このようなことが可能であると信じる理由はどこにもないのである。空中に高速で打ち出されたドライバーショットにおいて、ボールに(上から見て)時計回りの回転をかければスライス(右に曲がっていく)するという事実と、ゆっくりとグリーン上を転がるボールに回転をかける効果の間には何の関連性もない。ドライバーショットにおけるボールの空中の軌道は空力によって決定されるが、パッティングにおいてはそれらの要素は完全に無視できるものだ。

さてパットをスライスもしくはフックさせることが可能かどうかという主題に戻れば、相当量のバックスピンもしくはトップスピンと併用することで、サイドスピンが滑っているフェーズ中のボールを曲げる可能性があることは事実だが、空中にあるボールと地上のボールでは、正反対の現象が発生することがある。この現象についておそらくよく知られている例としてはビリヤードがあるだろう。ビリーヤードでは、ゴルフではスライスと見なされる回転をかけると、ボールは右にカーブせず、逆に左に曲がっていくのだ。ボールを下向きの角度で、さらにやや左側をキューが打撃すると、ボールのスピンは水平軸で見れば左回り(ボールの頂点が左側に移動していく)に回転していくことになる。さらにビリヤードの状況では、ゴルファーがパターで発生させることができる回転よりもはるかに多くのスピンを与えているが、それでも20フィートの転がりにおける最初の数インチのカーブを発生させられるに過ぎない。

しかしゴルフにおいては、ガードバンカーからのショットなどにおいて、スライススピンとバックスピンを組み合わせて、右回転のライフル弾のスピンをかける逆の現象を目にすることがある。この場合ボールはグリーン面に着弾した際にシャープな挙動で右に回転する。

ここでの議論をまとめると、サイドスピンは、相当量のバックスピンを同時に発生させることで、グリーンを通過していく最初の段階のボール軌道に、空中を通過するのと同じ方向に曲げる効果を発生させ、また相当量のトップスピンと組み合わせると空中とは逆の方向に曲げる効果を発生させる可能性はある。しかしバックスピンやトップスピンが得られない状況、つまりパッティングの状況では、サイドスピンがボールの軌道をカーブさせる効果を発生させることはできない。つまり結論としてはフック、もしくはスライスするパットをサイドスピンによって生み出すことはできないのである。

マシンテストによる仮説の裏付け

パターのフェースをカップ方向に対してプッシュ、またはプル軌道で動かした際の唯一の影響は、クラブフェースが向いている方向に対して、クラブヘッドが動いた方向にわずかにボールの打ち出し方向が逸れるということのみであった。これはボールとクラブフェースのあいだの摩擦によるものである(23章を参照のこと)。

21:4 パターヘッドをあるいはプルに動かした際の影響についての実験。ここからわかったことは、ボールの打ち出し方向はヘッドの動いた方向よりも、はるかに大きい割合で、フェースの向きに影響されるということである。よってホールアウトを目指す上で最も重要なことは、インパクトでフェースを目標に対してスクエアにするということである。

パッティングマシーンによるテストはこの仮説を裏付けるものとなった。例えば、あるテストでは約20フィートのパットを行う打ち出し速度で、ヘッド軌道をフェースの向いている方向から20°左のラインにした。このとき、ヘッドをフェース方向に真っ直ぐ動かした場合と比較して、左に約15インチ逸れたが、この際ボールの進行軌道にカーブが発生する様子は見られなかった。このことは、ボールがフェースの向いている方向から約4°逸れたことを意味しているが、クラブのスイングされた方向よりもフェースの向いている方向により近いことがわかる。またボールの総移動距離も1フィート少なくなった。

オフセンターインパクトとパターのデザイン

どのようなクラブであっても、フェースのセンターから大きく外れた場所で打撃をした際の影響については、第19章で説明したとおりである。ここでの一般的な結論はパターでも例外ではなく、フェースセンターから大きく外れた場所での打撃では、距離をロスするとともに、ヒール寄り、トゥ寄りのどちらでインパクトされるかによって、プルもしくはプッシュが発生した。この総量がどの程度になるのかはパターのタイプにもよるが、この一般的なルールはあらゆる種類のパターで適用される。

典型的な実験では、まずパッティングマシンを、フェースのセンターで打撃して約20フィート転がるようにセットした。そして次にボール一をヒールより、またはトゥよりに1インチずらして同じ実験をしたところ、距離にして46フィート短くなり、ヒール寄りの場合は左に、またトゥよりの場合は右に、約7インチ逸れることがわかった。

21:1 パターのフェースセンターから、トゥ寄り、ヒール寄りにそれぞれ1インチ打点をずらして打撃を行った実験。数値は全て、パターマシンと専用のパターを用いて24球を試打した際の平均値である。

ここまでフェースセンターを大きく外して打撃をするパッティングはなく、実際にショートパットにおいては、パターフェースのセンターで打撃ができなかったために発生しているミスというのは稀である。しかしフェースセンターで打撃をすることがより難しくなるロングパットにおいては、飛距離のロスはより致命的なものとなる可能性がある。例えば、60フィートのパットでは、1インチのオフセンターヒットの場合で約15フィートの飛距離をロスする。これが現実的に起こりうる、0.5インチの誤差の場合になると、約5フィートの飛距離のロスとなり、2パットが3パットとなってしまう危険性を生み出すのに充分な誤差と言える。

ここでパターの設計者は、まず理想的なボールの打撃ポイントを示すために、(おそらくはブレードの上部に)明確なマーキングを施すことでゴルファーを助けることができる。この点において、シャフトがヘッドの中心よりもややヒールよりに位置するセンターシャフト型のパターは、やや扱いづらい部分がある。つまり、フェースのセンターと、シャフトの延長線上のどちらでボールを打撃するのが正しいのかという疑念が発生する。

またもう一つの設計上の方法として、クラブヘッドの重量のある程度をヒール側とトゥ側に配置しつつ、ヘッド重心をフェースのセンターに持ってくることができればかなり効果的である。例えば21:5の図のように、重宝家のヘッド(a)を、(b)のように分割し、(c)のカタチになるよう再配分すると、この設計のパターでは両エンドに重量が多く配分されることでミスヒットによるフェースのねじれが低減され、結果飛距離のロスを半分程度まで減らすことができるのだ。(クラブヘッドの受領配分についての全体的な議論は第32章を参照のこと)

21:5 パターヘッドの再設計。上からみて(a)のような長方形の形をしているパターヘッドが、(c)のような重量配分に再設計されたとしたら、オフセンターインパクト時のねじれを低減させることができる。これは距離ロスの低減、方向性の双方にとって大きなメリットをもたらすはずだ。

現時点では、このような設計上の特徴を満たしているパターはほとんど販売されていないか、あるとしても偶然の結果そうなっているのではないかと疑われるものばかりである(訳者注:現時点ではほとんどのパターがこのような重量配分を施している)。

21:6 二つの重量配分に優れたパターの例。重量をブレードの両端に配分することで、ミスヒットに対する寛容性を向上させている。ピン社の「カーステン」パターはこの設計思想を忠実に再現して商品化したものだ。

パッティングで無視して良いこと

では、インパクトに関するこれらの事実は、パッティングの優れたテクニックを見つけることとどのような関係があるのだろうか。これらの事実が伝えていることは明確である。ゴルファーがしなければいけないことは、パターヘッドをボールに対してスクエアに置き、目標とするラインに、適切な速度で動かすだけだということだ。トップスピンをかける、フックやスライス、インパクトにかけてヘッドを加速するその他の複雑なことは、全て忘れてよい。控えめに言ってそれらの技術がボールの挙動にわずかでも影響を与えるというエビデンスは存在しない。

そのように考えれば、ゴルフボールというものは極めて厳しくそのインテリジェンスを制限された存在であると言うことができる。ボールは、あるプロによって、「その専門性に則って」打撃されたのか、適当に打たれたのかを告げることはできない。加速するストロークなのか、減速中のストローなのか、リズミカルにスウィープされたのか神経質にタップされたのか、そんなことは関係ない。ボールにできることは、パターヘッドの重量と速度によって決定されたボールスピードで、パターヘッドの動くラインとフェースの向き(あるいはそれらが異なる場合にはややフェースの向きよりに)決定された方向に打ち出されることだけである。

全てのゴルファーにとって、スムースで流れるようなストローク、短く鋭いタップ、インパクトにかけてのクラブヘッドの加速、あるいはややクラブヘッドをアッパーブローに使うといったことが、実用的な目的には全く貢献しないと言うつもりはない。しかしそれらが実用的な意味をなすというのであれば、それは単にフェースをスクエアに、パターヘッドを意図したラインに沿ってスイングするということに役立つだけの話だ。それ以外に、カップにボールを入れることを簡単にするメソッドは存在しないということを繰り返しておく。

モバイルバージョンを終了