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第二十一章 グリーン上の科学(5)

水準器、垂線、クロケットマレット

パッティングのラインの分析を行うことは、複雑な心理学的問題であり、また様々アプローチの存在からも明らかなように、高いレベルのプレイヤーは特定の方法に固執しない。

打撃を行う直前のアドレスの最中にそれを行うプレイヤーも存在するが、そうしたプレイヤーは明らかにグリーンに向かって、あるいはグリーンに乗ってからの歩行中に様々な上方を収集している。ボールの後方からしゃがんでホール方向を眺める者、あるいはホールの後方からボール方向を眺める者もいる。またはグリーン上に這いつくばるようにして両眼を地面と同じ高さにして確認する者もいる。あるいはパッティングの中間地点に立って、パッティングラインを真横から確認することもあれば、周囲の地形から情報を求めようとすることもある。またある者はパッティングラインに沿って歩き、とりわけカップ周辺のグリーンのサーフェスの状態を注意深く観察する。

水準器のような人工物の補助器具の使用は禁止されているが、パターをつまんで垂らすようにすることで垂線をつくり、ボールからホールまでを眺めることで傾斜を測定するのに有益であると主張するプレイヤーは多い。現実にはその行為によって新たな情報が得られる可能性が低いとしてもだ。多くのプレイヤーが全ての方法を試し、これら手法の開発に多くの時間をかけている。

精密さを追求すれば、ゴルファーがライン読みを行う際にどのように両眼を使っているのかは非常に重要な問題になり得る。ラインの読みに著しく長けているプレイヤーが、一般的なプレイヤーとは異なる方法を使用している可能性は充分考えられ、そしておそらく個々のパフォーマンスの日々の変化においてさえ、ゴルファーの両眼がどの程度機能しているかの変化に起因しているとも考えられる。大半のゴルファーにとって、「何だかラインが良く見える」日もあれば、全くイメージが湧かない日があることは疑いようのない真実である。

研究チームはこの事実についての実験を行うことはできなかったが、後年の研究者達にとって、このパッティングの際にゴルファーがどのように眼を使っているのかという問題に関する研究は、非常に興味深くやりがいのあるものとなるはずだ。視線がどこを向いているのかを継続して記録する特別な装置は存在するが、目下のところ非常に高額である。

パターをカップに向ける

この眼の使い方に関連して、現時点ではゴルフのルールにおいて禁止されているとは言え、ごく最近開発された特殊なパターである、「クロケットマレット」スタイルのパッティングについて言及することは意味のあることだと考えられる。このスタイルのパッティングにはいくつかのバリエーションが存在するが、基本的にはプレイヤーがカップに向かって正対してスタンスし、両脚の間でパターをスイングするというものである。

21:7 「クロケット」スタイルのパター。現行ルールではこれを使用することは禁止されているが、通常のパッティングとは全く異なるスイング方法になる。開発者によれば、ラインに対して後方からスタンスし、両眼を使ってブレードをセットすることによって、通常のパターよりもブレードを目標に向けて構える精度が向上するという。そのことから「双眼鏡」パターと呼ばれる。

「クロケットマレット」パターのある特定の開発者が主張するこのスタイルの利点は、この方法によって両眼がより正しくそれぞれの仕事を行うのに役に立つというものである。彼らはそのパターを「バーカムステッド双眼鏡」と呼んでその点を強調している。

実際には研究チームは、両眼がラインに対して正対するように見ることで、より正しくラインを把握できるという可能性について判断を下すことはできなかった。しかしチームは、このタイプのパターのブレードは、従来のパターのブレードに比べて、より正確かつ一貫性を持って、カップに対して構えられるという主張をテストとすることはできた。

チームは、これらの主張に対して何らかの実態があることまでは発見できたが、アドレスでパターブレードを正しく置くということに関してのエラーは一般的には非常に小さいものであり、パットのミスの原因としてはマイナーな要素にしかならないと考えられた。いずれにせよ、この点における双眼鏡パターの優れたパフォーマンスの要因は、パターヘッドを見下ろした際の、打撃面がシャープな直線的なエッジに感じられる視覚面にあった可能性がある。(テストを行ったモデルでは、ヘッドは実際にはほぼ円筒形で、上部から見下ろすと打撃面が直線に見える。)驚くべきことに従来型のパターでは、ゴルファーが構えた際にボトムエッジとトップエッジの双方が見えるだけではなく、その打撃面は何らかの理由でわずかに凸状(バルジしている)に見えるのである。

センターシャフト、またはブレード、または?

この話題はパターの種類に関連している。パターには他のどんなクラブよりもはるかに多くの種類が存在する。パッティングスタイルの撮影を行ったわずか16人のプロゴルファーの間でさえ、パタヘッドの重量には4オンスもの違いがあり、また一般的に販売されているパターシャフトの長さも数インチの違いが存在する。

しかしデザイナーが真にその創造力を働かせるのは、それが製品化される以前、つまり頭に浮かんだときである。まずシャフトの挿入位置は、ヒールからヘッドのセンターまでどこでも実現可能だ。パターヘッド自体も、肉厚なもの、薄いもの、後方が丸くなっているもの、後方が平らなもの、長い、短い、シャローフェース、ディープフェース、ラウンドソールになっているもの、筒状、鉄製、真鍮製、アルミニウム、プラスティック、木製と、可能なバリエーションの一部でも多岐にわたる。

研究チームは、ある特定のタイプのパターを使用しているプレイヤーが、他のパターを使用しているプレイヤーよりも優れた結果を出しているのかを調べるために、多くのテストを実施した。例えば 、シュウェップス P.G.A. 1965 4 月にサンドイッチのプリンシズで開催されたチャンピオンシップでは、すべての競技者のパッティングを、3ラウンドの三つのホールで全て計測した。 パターは、主にブレード、センターシャフト、マレットの 3 種類に分けられる。 ほぼ同数のプロが最初の 2 つのタイプを使用し、わずかに少ないプレイヤーが マレットタイプを使用した。 パター間の比較結果は表 21:3 に表示されている。

これらの数値が何らかの傾向を証明していることが期待されたが、実際には統計的に有意な差があるとは言えなかった。(このことは、もう一度実験を行えば、今回の事件で出ているいくつかの数値の差も逆転することが起きうると言うことである。)従い、このテストに限って言えば、どのタイプのパターも一般論として他のタイプのパターよりも優れていると結論づけることはできなかったのである。

このことは、一般的なゴルファーと、日常的にゴルフをしない被験者を対象に行われた、人工的なサーフェスにおける6フィートのパットの4,000回にもおよぶ実験の結果を裏付けるものとなった。

これら一連の実験が暫定的に指し示した一つの傾向は、パターの最適重量は、グリーンの速さによって異なると言うことである。高速の人口サーフェスでは、重いパターはうまく機能しないという証拠がいくつか得られたのである。

もちろんこれだけの実験で科学的に証明されたとは言えないまでも、ゴルファーがロフトは少ないがパターヘッドが重いパターを遅いグリーンもしくはロングパット用に、またパターヘッドが軽く、ほぼロフトがないものを高速グリーン用およびショートパット用に、二本を用意してラウンドする事で恩恵を得られると考えられる。あらゆるゴルファーのスコアの3分の1から半分程度はグリーン上でプレーされることを考えれば、パターを二本用意することはそれほど馬鹿げたことではないはずだ。

これを書いている時点で、18,000回 を超える 6 フィートのパットを含む 1966 年の Muirfield 実験の分析が進行中であり、パター間の比較に関していくつかの結論が出てきている。

ブレード、センターシャフト、またはマレットとして使用される 12 種類程度のパターを大まかに分類すると、この最新の実験は以前の実験の結論、つまりある特定のパターが他のパターよりも優れているとは言えなかったことを裏付けていると言える。しかし、ここでも重いパターは高速の人工サーフェスでは不利であるという結果があった。 たとえば、明らかに得点の低いパター (すべてのパターの平均である 39% に対して、33% がカップイン) は重く、一般的な意見ではかなり操作がぎこちなくなるものであった。

しかし、非常に明確で驚くべき結果の 1 つは、写真 ( 21: 8) に示されているグロテスクな外観のパターが、他のどのパターよりもはるかに優れたパフォーマンスを示したことである。このテストにおいて、6フィートの非常に高速なスロープのあるサーフェスにおいて、実に49%のカップイン成功率を収めたことは、次点のパターの成功率が41%であり、全体平均が39%であったことと比較して驚異的な数字と言える。

21:8 グロテスクだが効果的。この形状のパター(ルール違反)は6フィートのパッティングテストにおいて他のどんな形状のパターよりも統計的に優位な上位の数値をおさめた。

読者諸君がこのパターを注文してしまう前に付け加えておきたいことは、このデザインのパターは現時点ではルール適用外であるということである。

さて、これまで明らかになったことの全ては、実際に我々がパターを選ぶ際にどのように役に立つのだろうか。

通常我々がパッティングを行うグリーンのスピードに適したパターヘッド重量を備え、重量の配分が前述のように適切に分散されており、ブレードのエッジが真っ直ぐでその境界もハッキリとしたものを選択する、これらは全てある程度役に立つと考えられる。しかし科学者、プロゴルファー、あるいはそのほかの人がゴルファーに与えることのできる最も賢明なアドバイスは、そのゴルファーが一番好きなクラブでパットをすることである。彼のクラブ選択における自信は、他のなによりも最も重要になる可能性が高いのだ。

パッティングを簡単にするのか?

パッティングの議論から離れる前に、時として提唱されるアイデア、つまりカップの直径を現行の4.1/4インチよりも大きくすることで、ゴルフのゲームにおけるパッティングの重要度を低減し、ロングゲーム研ぐリーン上で行われるゲームのバランスを最適化するということについて考えて見たい。

当然のことながら、この提案を最も熱烈に支持するのはパットが下手なプレイヤー達であり、この提案に激しく抵抗するのはパッティングが上手な選手達である。大きなボール対小さなボール論争(第26章を参照のこと)と同様、どちらの議論も厳然たる事実に基づいているという点では注目に値する。よって客観的な見方をしたとしても害を及ぼすことはないだろうと思われる。通常提案されるカップのサイズの増加はそれほど大きいものではないが、ものごとがどのように影響を与えるのかの議論をより明確にするために、カップが直径8.5インチ(現在の直径の二倍)になったとしたらゴルフというゲームがどのように変化するのかについて考えて見よう。

21:9 バケツのような大きさの8.5インチ(通常の二倍)の大きさのカップ。しかしそれでも総ストロークは6津しか減らすことはできず、また6フィートのパットも普通に外れる。

左右の直径が二倍になるということは、カップの奥行きも倍になることを意味しており、これは平均的なグリーンでカップを2025フィートほどオーバーするボールが、この二倍の大きさのカップであれば正面から転がっていった場合、ほぼカップインすることを意味する。通常の大きさのカップであれば、ボールがカップに転がり落ちるのは56フィートのオーバーの強さが限度である。よって8.5インチのカップにおいては傾斜を正確に読むことはあまり重要ではなく、単に強く打てば良いということになる。

このことがパッティングに及ぼす影響は、当然パットの長さに依存して大きくなる。どちらのカップでも1フィート以下のパットが入る可能性に大きな影響はないが、非常に長いパット(20ヤード以上)になった場合、そのカップイン確率は68倍に向上すると予想される。

8.5インチのカップにしたことに寄る影響のテストの結果は21:4に示したとおりである。50ショット(統計的に充分な母数とは言えないが)のパッティング、あるいはピッチショットを8.5インチのカップでテストし、同様の4.1/4インチの場合と比較を行っている。

読者諸君はカップが大きくなった場合の影響について、それぞれの見解を導くことができるが、もっとも注目に値するポイントは、(1) 6フィート以内からはほぼカップインできるという確実性、(2) 3パットの可能性の事実上の排除、(3) ほぼグリーンの端から端までの距離を超える、50ヤードという距離から2打でカップインする化膿し絵の劇的な向上、の三つがあげられる。

もし読者諸君がこの実験を自ら試して見たいと思うのであれば、午後の有益なアミューズメントを提供してくれることだろう。8.5インチというカップはそれほど大きなものに聞こえないかも知れないが、グリーン上でみれば大きな採掘場跡のように見える。5ヤードの近さになれば、パットをミスすることはほぼ不可能に感じ、周辺の傾斜などの些細なことを気にせずに、真っ直ぐにボールをカップに向けてたたき込むようになるだろう。しかしこれは間違った自信であり、傾斜の読み間違いを深刻なレベルで行えば、パットミスする可能性が充分にあることにすぐに気づくだろう。

では、この変更によって、1ラウンドあたり何打スコアを縮める影響が考えられるのだろう。大まかな計算ではあるが、スクラッチゴルファーの場合でおおよそ6打縮められると考えられる。正、これはあくまで8.5インチのカップを使用した場合である。一般に支持者によって提唱される、4.5インチや6インチの場合では、この数字はそれに応じて少なくなる。

これによってパッティングの重要度が低減されるのかどうかはまた別の問題である。確かに全体的なストローク数を低減することは間違いないが、パッティングが上手なプレイヤーはやはりそれでもパッティングが下手なプレイヤーよりも少ないパット数になるだろう。後者は、これまで23フィートのパットでイップス症状を発症していたものが、68フィートの場合に変化するだけだ。あるいは6フィートのクラッチパットを決められない状況が、15フィートのそれに変わるだけの話だ。

いずれにせよ、パッティングの重要性が低減されたところで、それでゴルフというゲームが面白くなるのかどうかについては、実際に試して見ないと何とも言えないが、おそらく疑問である。それは単純に、ニクラウスやパーマ−やプレーヤーがプレイをしているところを日常的なものとして見ている平均的なゴルファーにとって、ゴルフとはそういうゲームであり、パッティングはその一部に過ぎないからである。

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