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第二十六章 ボールの種類による飛行のちがい(2)

アベレージプレーヤーやそのクラブにとってのメリット

よってロングヒッターとそうではないプレイヤー双方が1.3オンスのボールでプレーする場合、ロングヒッターの方がロスする飛距離が大きくなることは事実である。例えばショートヒッターが410ヤードのホールでベストショット二打によるパーオンを達成しようとする場合、1.3オンスのボールであればグリーンまで20ヤード付近までは到達可能である。しかしこれをロングヒッターが500ヤードのホールで二打でグリーンオンを目指す場合に当てはめると、グリーンまで70ヤードも残ってしまうのである。

別の見方をしてみよう。通常であればどちらのプレイヤーも、ドライバーとその次に5番アイアンを必要とする状況のとき、1.3オンスのボールになればショートヒッターはドライバーと3番アイアンで同距離に到達するが、ロングヒッターは二打目にウッドが必要になる。

つまりプレイヤーの大半をしめるショートヒッターにしてみれば、1.3オンスのボールになったほうが得られる恩恵が大きくなると考えられるのだ。

ただし1.3オンスのボールは1.62オンスのボールよりもフックやスライスが強くなる、また強風の環境ではボールが舞い上がってしまって飛距離をロスしやすくなるということはあるだろう。しかしこうした懸念も、ボールのディンプルを浅くすることで、揚力と抗力の双方を減らすことである程度打ち消すことができるかもしれない。

逆に上級者であるほど、より簡単にボールを空中に長く留まらせ、着弾角度が急角度になることでグリーン上にボールを止めやすくできる現状のボールのスピン量を維持することを歓迎するだろう。

しかし一般論として1.3オンスの「水に浮く」ボールを使用することは、現在のロングヒッターが軽々とドライバーとピッチングウェッジで到達してしまう400ヤードのホールの、「パーを取ることは困難である」という本来の「価値」を即座に取り戻すことを可能にする。

仮にそのことに意味を見いださないとしても、今日距離を延長したためにグリーンから次のホールのティーまで、1ラウンドあたり200800ヤードも歩く距離が増えてしまった数百のコースの現状の慣習を、即座に取りやめることができるのだ。

これにより節約できる時間、労力や体力、はかなりものになるはずだ。1.3オンスのボールについて考えれば考えるほど、また、純粋にゲームに与える影響について冷静に考えれば考えるほど、このボールを推奨する理由はたくさんあるように思われる。

アベレージゴルファー氏が1.3オンスのボールを導入することで、最も恩恵を得られることはほぼ間違いないが、そのことを彼が納得するかどうかは確かではない。ゴルファーの最大の楽しみは、かつてウッドハウス(訳者注:イギリスの著名な作家。ゴルフにまつわる短編集も書いた)が言ったように「スニフターを打つ(ウイスキーを専用のショットグラスで引っかける)」ことであり、スニフターは質よりもサイズでゴルファーを満足させるようだ。

もちろん1.3オンスのボールは風の強い海岸沿いのコースのパッティンググリーンでは問題があるかもしれないし、一般論として軽すぎるという結論になるかもしれない。しかしこれは実際に試してみなければわからないことだ。実際に一回か二回トーナメントで試してみることで多くの教訓が得られ、そしておそらく、プロがより多くのスピンをかけるなどの技術で対応することにより、現状のボールよりもエンターテイメント性、技術性の高いものになる可能性だってある。

アメリカのボールについて

ゴルフの弾道に関する一般的な話題から離れる前に、ビッグボール対スモールボールの論争について触れておく必要がある。1.68インチのアメリカン・サイズのボールは1.62インチのサイズのボールよりもゴルフに適したボールであると、長年にわたり主張され、今でも多くの非常に経験豊かなプレーヤー、ゴルフライター、評論家たちによって断固として支持されている。その根拠としては、大きいサイズのボールのほうが、よい結果を得るためにはより正確な打撃が必要となること、アベレージゴルファーにとってもフェアウェイにボールを止めやすいこと、上級者にとってはより正確に意図的なフック、スライスを打ちやすいこと、より正確にグリーン上に止めやすいこと、また世界中の優れたコースでも必ず発生するグリーン上のイレギュラーな凹凸に対して、直径の大きいボールの方がパッティングのラインを維持しやすいことなどが挙げられている。

これに対しての反論は、空力の効果によってより効果的に意図的なスピンを発生させられるとしても、アベレージゴルファーにとっては同時に発生してしまう意図しないスピンの方が重要であるというものである。とりわけ、技術の低いゴルファーによって打ち出された場合、高く舞い上がって風の影響を受けやすくなる。よって週末ゴルファーにとってはそのような飛距離のロスがプレイに与える影響が大きくなるとしている。

またアベレージゴルファーは、1.62インチのボールからアメリカサイズの1.68インチのボールに変えたとしても、その恩恵を判断できないとする意見もある。それはそうしたプレイヤーのスイングは、小さいボールに対する要件や反応によって調整されてきたものあり、大きいボールに対して信頼性を即座に感じることが困難であるというのだ。

いっぽう、アメリカチームは英国チームを自国開催の大会で頻繁に破っており、また英国プロが世界各国のトーナメントでもアメリカ人プロに対して劣勢であることは、ボールの大きさに原因があるとする論者もいる。

ところで、「より良いボール」とはどういう意味なのか

このような議論の完全な(あるいは最終的な)結論は、その議論における様々なファクトを勘案した上で導き出されているものだと公正な姿勢の読者は考え、事実から導かれる推論のみが議論の対象になっていると考えるだろう。しかしもし読者諸君が自力でこのファクトを見つけようとするならば、すぐに幻滅してしまうだろう。

あるプロAは、大きいボールを使ったことで20ヤード飛距離をロスしたと主張する一方、プロBはなんら違いはないと言い、ゴルフライターのX氏はその知識から、パッティングリーンで大きいボールを使う事で1ラウンドあたり2打はスコアを減らせると見積もり、別のライターY氏は同様にその知識からスコアに差が出ることはないと主張する。

こうした事実を公正な読者諸君が冷徹な視点から見れば、どちらかのボールを執拗に支持する連中というのは、実はファクトに対する知識が最も不足している連中なのではないかと思うことすらあるだろう。

ファクトが全てを語るわけではない。あるボールが他のボールよりも優れているとする基準は、大部分において物理科学の範囲を超えている。もしあるボールを使用することで、他のボールよりも少ないスコアで上がれることが決定的に示されたとしても、それがすなわち「良いボール」であることを決定するわけではない(おそらくそのゴルファーはルールが許す限りそのボールを使い続けるとは思うが)。ゴルファーはまず、「より良い」という意味について合意しなければならず、そこから論点が決定する。さもなければ「どうあるべきか」といった、二つのボールの実際の違いについての、不正確な、悪くすれば思い込みの議論が、本来の問題を曖昧なものにしがちなのだ。

よってここでまず求めるものは「ファクト」である。これは場合によっては簡単に見つかり、場合によっては発見が難しい。ここでドライバーの飛距離への影響をカテゴリー1、パッティングのパフォーマンス全体への影響はカテゴリー2に属するものとする。しかし、これらはすべて、少なくとも原理的には、何らかの測定によって答えることができる問題である。

ファクトの比較: 1.621.68

この研究の大部分は、シュリベンハムの王立陸軍科学大学とラフボロー工科大学で行われた。実験そのものは、インパクト時、飛行中、パッティンググリーンでの挙動や反応にどのような違いがあるのか、というものだった。

これらは結局のところ、二つの重要なファクター、つまり大きなボールを使うことでプレイヤーの「自信」にどの程度影響を与えるのか、また大きなボールを使うことで考えられるあらゆる「再現性」の向上が最終的にボールの打撃の方法に与える影響、それらが結果としてプレーヤーのゲームの一般的なレベルに与える影響についてである。

図26:2 アメリカサイズ(左)直径1.68インチと、イギリスサイズ(右)直径1.62インチの違い。

図が示すように、2つのボールの大きさの差は小さく、ボールを打つゴルファーにとってその差がどんなに大きく見えるとしても、実際の行動における差はそう大きいものにはならないと予想される。したがって、本実験にあたっては可能な限りの精密性が求められ、慎重な統計分析が必要であった。

入手が容易で広く普及しているという理由から、実験はイギリスの2つの主要メーカーのボールに限定して行われた。イギリス製のアメリカンサイズのボールの弾道特性が、アメリカ製のボールの弾道特性と完全に同じではない可能性もあるが、それでも、すべてのメーカーのボールを対象とした幅広い調査をすることで、結論が大きく変わる可能性は非常に低いと考えられる。

1.632と1.692の比較

まず、実験用に用意されたボール直径の実寸を確認した。1.62インチボールは平均1.632インチ、1.68インチは平均1.692インチで、どちらも大きさにかなりバラツキがあることがわかったが、おおむねルール上の制限の範囲内に収まっていた。つまり、どちらも公式の最小サイズより平均0.012インチ大きく、実際、製造におけるかなり広い「許容範囲」を示している。

同時に、両者のサイズは、その差の大きさとの関係で、弾道学的に実験が2つの全く異なるボールを扱っていることを確認するのに十分なほど非常に一定であった。同じことが、弾道性能の目安になる「メリット値」(質量÷直径の2乗)にも当てはまる。この数値は、イギリスサイズが平均17.01、アメリカサイズが平均15.83であった。

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