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第二十六章 ボールの種類による飛行のちがい(4)

グリーンへのピッチングにおける相違点

次いで研究チームは以下の二つの問題におけるテストを行った。一つは、一方のボールが田方のボールよりも、グリーンへのピッチショットにおいて早く止まる傾向があるのか。二つ目は、同様に重要なことだが、短いピッチショットの際のランの量は、どちらのボールの方が安定しているのか(つまり予測がしやすいのか)ということであった。

双方の問題にかんしても、二つのボールの間に有意な差は見られなかった。例えば、9番アイアンで30ヤードのキャリーのボールを、早いがさほど硬くはないグリーンに対して放った際、大きなボールのランは平均36.5フィート、小さなボールのランは平均36.7フィートと、ほぼ同じであった。

ランの距離の安定度も、その統計における「標準偏差」に換算すると両サイズともほぼ同じになった。

もちろんこれは短いピッチショットの結果であり、フルショットのアイアンショットの結果にはそのまま反映しない可能性はある。チームはこの状況でのランの計測実験は行わなかったが、大きいボールの方が着弾角度がわずかに急角度になるため、小さいボールよりもランが少なくなり、またフルショットにおいてその差が大きくなると考えるのが妥当であろう。

しかしその場合であっても、ランの距離差は全体の10%を超えるものではなく、ドライバーの実験の場合と同様である。

つまり結論としては、フルショットにおいては大きいボールの方がわずかに早く止まる可能性があるが、ピッチショットにおいては止まる速さやその安定性において、どちらのボールが優れているとは言えなかったということになる。

パッティングにおける違い

パッティングに関するチームが行った実験は、非常に包括的なものだった。実験は、良いグリーン、悪いグリーン、さらには実験室の人口のサーフェスにおける、マシンテストによる転がりの安定性の測定、さらに実際のグリーンと人工的な環境における、何百人ものゴルファーによる何千球もの試打の計測を伴うものであった。

ここでその詳細な結果について掲載することは控えるが、ある事実がその本質を良く表していると言える。100人以上のゴルファーがパッティング競技会に参加し、10フィートから36フィートの距離の9ホールのグリーンを2ラウンドするという環境で、彼らは二人一組でイギリスサイズとアメリカサイズの二つのボールを渡され、ホールごとにそれらを交互に使用した。よって全てのホールが二つのサイズのボールで同じ回数だけ使用されたことになる。

その結果をまとめたものが表26:5である。わずかな差は統計的に有意とは言えない。別の言い方をすれば、実験によって二つのボールのどちらがパッティングにおいて優れているのかを結論づけることはできなかった。

さほど重要ではない二つの例外的条件を除き、これまで実施された全ての実験でこの結論が得られている。

しかしここでそれらの例外について触れておこうと思う。一つは人工的に作り出された、極めてボコボコな(一般的なグリーンよりも劣悪な)サーフェスにおいては、1.68インチのボールの方がラインから外れにくいはずであるという予測があったが、その差はさほど大きいものではなかった。

二つ目は、全く逆の状況で、ミュアフィールドのパッティングの実験(第21章を参照のこと)における、ビリヤード台のように滑らかなサーフェスにおいては、イギリスサイズの小さいボールのほうがカップインしやすいということであった(カップイン確率がイギリスサイズ40%であるのに対して、アメリカサイズが38%)。ただしこれがボールサイズの影響であると断定することはできない。ここには他の影響、例えばあるボールではある特定のパターが他のものよりも多く使用されたなどの要因が影響している可能性もある。しかしそうした可能性を考慮しても、少なくともサイズの小さいイギリスサイズのボールのほうがカップインしやすいはずであるという予測は成り立つはずである。考えて見れば、完全に平らなサーフェスで100%真球のボールを転がせば、単純に小さいボールの方が同じサイズのカップには入りやすいはずだ。極端なはなし、テニスボールよりもビー玉の方が入りやすい。コンピューターでの計算によれば、ゴルフボールがその中心で打撃をされた際、ジャストでカップインするために必要な速度は、イギリスサイズのボールの方が、アメリカサイズに比べて約2%大きい。

しかし全てのゴルフコースのグリーン面は、ビリヤード台の滑らかさと実感室で作られたボコボコの面の、いずれかの中間に存在しているはずであり、よってそれぞれのボールの持つわずかな優位性は、互いに相殺される関係にあるのだ。

したがって、2つのサイズのボールの間でパッティング性能に差が出た実験でも、それらを総合すると、他のすべてのパッティングテストの結論と一致することになる。つまりどちらかのボールがグリーンに上においてアドバンテージを持つとは言えないということである。

二つのサイズのボール相違点のまとめ

ゴルフのプレーにおける影響について言えば、実験およびコンピューターの計算上の結果から、二つのサイズのボールを全く同じように打撃した場合、以下の物理的相違があると考えられる。

Aエリア ほぼ確実に違いがある部分

  1. 空中のキャリーの距離(68インチのボールは24%ロスする)
  2. ドライバーおよび他のクラブによるフルショット時のランの距離(68インチのボールは最大で10%短くなる)
  3. 横風に対する横方向への逸脱の量(68インチボールは20%から30%大きくなる)
  4. 強いアゲインスト状況における飛距離のロス(68インチボールの方がロスが大きくなる)

Bエリア ほとんど違いがないか、あるとしても無視できるレベルの相違

  1. ボール初速、スピン量、打ち出し角度
  2. グリーン周りにおける全体的なパフォーマンス

Cエリア サイズだけではなく、ディンプルによっても違いが出る(sつまりメーカーの間でも違いがでると考えられる部分)

  1. 弾道の最高到達点(68インチボールの方が5%高くなる)
  2. スライスやフックにおける曲がり幅(68インチボールの方が5%以上大きくなる可能性がある)

心理的側面

二つのサイズのボールが全く同様に打撃された際、どのように飛び、また転がるのかについての物理的側面についてはこのくらいにしておこうと思う。しかし全てのプレイヤーがボールを打撃する際に、このサイズの違いが心理的にどのように影響するかのかも同様に重要な問題である。そうした心理的要因が、これまでの物理的側面に関する調査から得られた知見を修正する可能性があるからだ。二つのボールの決定的に重要な違いは、単純かつ明白に、アメリカサイズのボールはアドレス時に大きく見える(それもかなり驚異的に)という点に、心理的側面の与える影響について考える理由があるというものだ。

これには二つの影響がある。一つは大きい方が打ちやすいと感じることだ。大きいサイズのボールお重心は0.0050.006インチほど地面から高く、半径が大きく、また芝の上に出ている部分が大きく見えることで、特にボールを上手く打撃する事に不安を感じているレベルのプレーヤーにとっては、確実に打ちやすく感じるはずである。

この点、小さなボールの場合は「すくい上げる」「はじく」必要があるという議論ももっともかもしれない。しかしここで挙げられる主なメリットは、やはり「自信」であると思われる。

二つ目の効果は、プレーヤーのボールに対する先入観(それが完全に誤ったものであっても)である。例えば、2番ウッドでタイトなライから大きなサイズのボールを簡単に拾い上げることができると感じたならば、ほとんどの場合、それはそのとおりにできるのだ。一方、大きなボールを使って風に向かって打つと、いつもより激しくスライスするのではないかと恐れている場合は、やはりそのようになる可能性が非常に高い。ゴルフの方法と結果に関わるすべての点で、自信は成功を促進し、自信のなさは災いをもたらす。信じることは、達成への道程の半分以上である。

パッティングと大きなサイズのボールにまつわる繰り返される迷信は、「球筋が良くなる」「ホールに入りやすくなる」「ラインから外れにくくなる」等々、少なくない。何年も悩んだ末のことであれば、どんなわずかな可能性の希望的観測にもひっかかり、それがうまくいくことを切に願うものだ。少なくとも一時的には、最初の数回を成功させる限りにおいて、良い結果を得られる可能性がある。彼は、自分が求めるものしか見ていないのだ。占い師も予想屋も、このほとんど普遍的な人間の弱点を利用して生計を立てている。

提言と次のステップ

以上のような、かなり重たく慎重な議論から、チームは自分たちの強い一般的な結論を形成していないように思われるかもしれない。

しかし、そんなことは全くない。物理的な違いの数々は証明された。しかし、その数も大きさも、多くのゴルファーが信じてきたほど大きくはない。実際、存在する違いは、最高のゴルファーにとってさえ、そのプレーにおけるショットごとの変化よりも小さく、おそらくプレー中に発見されることはないだろう。つまり、もしある人が、自分が小さなボールではなく大きなボールでプレーしていることを知らなかったとしても、ゴルフのラウンド中にショットの結果にそれを疑わせるようなことが起きる可能性は極めて低い。

このことから論理的に導かれるのは、世界の統一を図るために、アメリカで使われている1.68インチのボールを採用することは、おそらく検討に値するということである。このことは全てのゴルファーのプレイにとってなんら実質的な違いをもたらすものではなく、このボールが導入されても、ゴルファーは数ヶ月後には、この論争をすっかり忘れてしまうことだろう。特に、ウォーカーカップ、ライダーカップ、カーティスカップでは、このボールに対応するスーパースイングを開発することによって、優勝を狙うことはできない。スイングを変えなければならないと信じてやまないプレイヤーを別にすれば、スイングはこれまでと全く同じで構わないということを我々は強く信じている。

しかし、もう一歩踏み込んでみてはどうか。もし、全世界でゴルフボールのサイズが統一されるなら、ロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフクラブ(英国)とアメリカ合衆国ゴルフ協会が一緒になって、ゴルフボールの飛距離を制限する、あるいは減らすより良い方法として、軽量化、あるいはサイズアップを真剣に検討することがもっと簡単になるはずだ。この章で提案した「ゴルフボールは水に浮いていなければならない」というルールで締めくくることもできるだろう。

(訳者注:上記のような時代を経て、ゴルフボールのサイズの規格が現在の1.68インチのアメリカサイズに統一されたのは1990年のことである。)

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