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サイドスピンに対抗するウッドの「ギア効果」
ほとんどのアイアンクラブでは、ヘッドのフロントからバックフェースまでが薄く作られているのに対して、ウッドではそうではないため、クラブヘッドの重心は打撃を行うフェースよりも後方に置かれることになる。
よって例えばクラブヘッドが重心から時計回りに回転するということは、オフセンターインパクトによる影響でトゥ側が後退しながら右を向くということであり、ボールは右方向に打ち出される。
このときにボールのバックスピン軸が右に傾き、ボールが左に曲がると言う現象が起きる。これが一般に「ギア効果」とよばれるものであり、クラブヘッドとボールがかみ合ったギアのように互いに作用している様子を表現している。
19:8 トゥよりのオフセンターショット。インパクトまで白線の方向にスクエアであったクラブフェースが、インパクトの衝撃によって激しくフェースが開いている状態に注目。ボールは右に打ち出されるが、完全にフェース面を外したわけではないために、ある程度目標方向にカーブして戻ってくる(本章の「ギア効果」参照)。しかしいずれの場合でも飛距離はロスされる。
19:9 ヒールよりのオフセンターショット。上記と同様に左に打ち出された後にある程度目標方向に戻ってくる。飛距離が失われるのは同様である。
この効果は、重心がフェースに近いアイアンのクラブヘッドでは小さいものになるとは言え、それでも存在はする。よりブレードが厚い構造のアイアンの場合、ヒールあるいはトゥで打撃されても想定される程スライスまたはフックが起きないのはそのためである。
ギア効果が前面に出てくるのは、ウッドのクラブでオフセンターのインパクトが起きた場合である。
アイアンショットと同様、ウッドショットの場合でもオフセンターインパクトによってフェース面が回転するため、ヒールショットでは打ち出しが左に、トゥショットでは右に出る。しかしこの単純なフェースが「開く」あるいは「閉じる」といった現象による影響が、ギア効果によって「低減される」だけに留まらず、完全に「上書きされる」と言ってよい。これはボールコンタクトの位置がクラブヘッド重心から単に左右にずれるだけではなく、前方に寄ることの直接的な影響である。19:10の図がこの現象を表現している。
19:10 ドライバーのヒールショットがスライスし、トゥショットがフックする理由の「ギア効果」。このような状態w考えれば理解しやすいかも知れない。クラブヘッドが止まっている状態で、そのフェースにボールが正面方向から衝突する。ボールが真にクラブヘッドの重心の正面に衝突すれば、クラブヘッドは真っ直ぐ後ろに動くはずである。しかしもしややトゥよりのフェースに衝突すれば、クラブヘッドを後方に押し下げるだけではなく、重心を中心にクラブヘッドが回転する作用を与える。このことはボールがコンタクトしている間にフェースを「開く」ことになり、他になんら影響を及ぼす効果が発生していなければ、フェースが開いたことでボールにはスライス回転がかかるはずである。しかしかしながら、例えばドライバーのように、クラブヘッド重心がフェースからある程度離れている場合、オフセンターショットによるボールとクラブフェースのコンタクトポイントにかかるエネルギーが左右にずれる現象が起きる(トゥよりの場合では、図の上の方に向かってずれる)。このことがボールを後方からクラブフェースを通じてプッシュする作用を発生させるためにトゥよりのショットではフックが発生する。完全にフラットなフェースのドライバーの場合、このカウンターイフェクトはより強くなる。同様の効果が、ヒールよりでショットされた場合にはスライスする影響となって現れる。この現象は「ギア効果」と呼ばれるが、それはボールとクラブフェースがかみ合ったギアのように、一方が回転すれば、もう一方が逆方向に回転するという現象が起きているからである。
完全にフラットなフェースのドライバーで、ヒール寄りで打撃が行われた場合、ボールは左に打ち出されて(フックではなく)スライスし、トゥ寄りで打撃された場合には右に打ち出されて(スライスではなく)フックする。これらの影響はかなり大きく、ショットはフェアウェイから完全に外れてしまうことになる。例えばトゥよりのショットで言えば、わずかに右に打ち出され、その後左サイドのラフに向かってカーブすることになる。
しかしゴルファーであれば経験則として、ドライバーのヒールショットがスライスし、トゥでのショットがフックすることを知っていると思うが、ここで説明されているほどは曲がらないはずである。それはウッドクラブの場合、クラブフェースの中央にあるベストな打撃ポイント、つまり「芯」から、外側に向かってわずかに凸状に湾曲するように作られているからである。この凸状のフェースの構造が、ギア効果を低減し、代わりにアングルスピンの効果を増すことで、これらが多かれ少なかれ相殺する状態を作り出しているからである。
19:11 適正なバルジのカーブ量についての考察。ボールがトゥよりで打撃された場合には二つの効果が発生する。一つは衝撃によってフェースが開き、その結果意図した方向よりも右にボールが打ち出され、スライス回転がかかる傾向がある。二つ目は、「ギア効果」によってフック回転がかかる効果である。完全にフラットなフェースのドライバー(左)の場合、「ギア効果」が右に打ち出される現象を陵駕してしまうことで、意図したラインの右サイドのラフまで到達してしまう。ドライバフェースに凸状のバルジを設けることで、トゥショットの場合にフェースの開く量をやや少なくすることができる(ヒールショットの場合は閉じる量)ことで、「ギア効果」を弱めることができる。そのため適正なバルジ量(中央)であれば「ギア効果」をやや抑えることでトゥショットによるフックの量を。フェアウェイ中央に戻ってくる程度に抑えることができる。バルジ量が多すぎる場合(右)、フェースの開きに対する「ギア効果」のカウンターイフェクトを無力化してしまう、ヒールショットにおけるバルジの効果も、トゥの場合と同様である。
もちろんこれらが常に完全に相殺するわけではなく、ギア効果がわずかに優勢になるようにされているため、よってヒール寄りで打撃されたショットは、目標ラインのやや左に打ち出され、ややスライスを描くためフェアウェイの中央に戻ってくることになる。いずれにせよ、サイドスピンによる効果とギア効果を完全に相殺させるよりも望ましい結果となるため、オフセンターの度合いが強いほど(クラブヘッドのねじれが大きいほど)ギア効果が強くなることで、どこで打撃をしても理論上はボールが目標方向に運ばれることとなる。
もちろん、クラブフェースのどこで打撃をしようと、自動的にフェースがボールをセンターに運んでくれる構造にするための解は単純ではない。アイアンではサイドスピン効果がギア効果を上回るため、やや凹状のフェースにすることでオフセンター打撃の悪影響を減らす琴ができると考えられるが、これはルールにより明確に禁止されている。
ウッドに関して言えば、これら二つの効果の精密なバランスは、プレイヤー個々の打撃のバリエーションに依存するとしか言えない。クラブメーカーとしてプレイヤーを助けるための最善の策は、ウッドのクラブフェースが、ヒールショットの場合には左から曲がり、トゥショットの場合には右から曲がってくる「傾向」を確かにする事だけであり、そしてそれが実際のクラブ設計で行われていることである。
オフセンターのショットは常に飛距離をロスする
ただし、何よりも覚えておくべきことは、クラブフェースのオフセンターで行われたショットは、ロフトのあるアイアンでの薄めのショットを除き、どのようなことが起こっても常に飛距離がロスされるということである。クラブフェースが回転する際にロスされる分、ストロークのエネルギーは失われる。
従い、とりわけドライバーショットにおいて最大の飛距離を達成し、またバッグ内の全てのクラブにおいて飛距離を安定させる唯一の方法は、常にクラブフェースの「スイートスポット」で打撃を行うことである。
この問題に関してのプレイヤーに許される許容度がどの程度になるかはクラブヘッドの設計にも左右される。しかし一般的にはスクラッチプレイヤーがドライバーを使用した場合、スイートスポットから1/4インチ外れた時に飛距がキャリーで3ヤード減り、1/2インチのときに12ヤード減、3/4インチの時にほぼ30ヤード減ることがわかっている。
これらの数値は、当然クラブフェースのヒール寄り、トゥ寄りのどちらで打撃を行ったかの場合であるが、さらにフェースの高い位置、あるいは低い位置で打撃する場合の自由度はさらに小さいものとなる。実際には、中心を外したショットの全体的なマージンは1/4インチほどしかなく、それは6ペンス硬貨よりも小さな円となる。
19:12 スイートスポットを外した際の、飛距離への影響。実際にはクラブの構造、プレイヤーのスイングにも影響されるが、上記は一般的なスクラッチプレイヤーでの実験をもとに、オフセンター量と飛距離の関係を表したもの。
ゴルファーの両手への影響
スチールシャフトはねじれ剛性が高く、このことはシャフトがしなるよりも捻れる際の抵抗が大きいことを意味している。従い、オフセンターインパクトによってクラブフェースが開く、あるいは閉じるように捻れる作用がシャフトにかかった場合、その効果が急速かつ鋭くシャフトからプレイヤーの両手に伝えられることになる。
そのため、もしショットを打ち終わった後で、クラブが両手のなかで捻れていたとしても、握りが弱い、あるいはグリップの方法に問題があるということにはならない。多くの場合、クラブフェースの中心でボールを打撃するということに失敗したというだけの話なのだ。
まっすぐ飛ぶ曲がったショット
この見出しに矛盾があるわけではない。この事実は単にターゲットの右もしくは左にボールが着弾し、かつその弾道が飛行中にカーブを描かなかったために直線的な飛球になった状況を指している。このようなことは、ターゲットから5ヤード逸れた場合、あるいは20ヤード離れたラフに、はたまた隣のホールのフェアウェイに着弾としたとしても同じことである。このようなショットは、通常右に打ち出された場合に「プッシュ」、左に打ち出された場合に「プル」と呼ばれる。単純にプレイヤーがボールを正しくスクエアに間違った方向に打ち出すことで、間違ったラインにボールが真っ直ぐ飛んでいく状態である。ここにはインパクトにおける何らかの複雑な飛球法則が関与しているわけではない。クラブフェースは、本来有るべきスイングの方向にほぼスクエアになっている。問題はインパクトよりも早い段階で、プレイヤーのハブアクション全体がターゲット方向よりも、ボールの飛球方向に向いたことで発生している。
原理的には、これを修正する方法は極めて単純で、ターゲットに対してオフラインの方向にスイングすることをやめ、オンラインの方向にスイングすることだけである。ここで必要なことは本当にそれだけなのである。
しかし残念ながら、現実に起きることはそれほど単純なわけではない。例えば(多くの週末ゴルファーがそうであるように)プレイヤーは、そもそも間違ったグリップをしているか、あるいはシャット、オープン過ぎるフェースの使い方をしているために、スイング中にスタンスの向きを変えながら「自分を横切るように」スイングをする習慣が身についている場合があり、結果としてまずますスクエアなインパクトを真っ直ぐ飛ばすことができるようになっているとしよう。
間違った方法に間違った方法を掛け合わせることで、時としてフェアウェイのど真ん中に完全に真っ直ぐなボールを打ち出せるということは良くあることだ。プレイヤー個々にとって、両方の欠点を修正するのが良いか、双方の問題が互いを補填しあう状況になるよう調整し続けるのが良いのかは、プロのインストラクターの判断と、個別の状況に応じたプレイヤー本人の嗜好にゆだねられるべきだろう。
しかし一つ確かなことがある。このようにバランスをとる関係にあるエラー群を使用することは、あらゆるプレイヤーにとって、その人のベストのフォームを一貫して再現することを、より難しくしてしまう傾向があるというのが常である。
さらに、可能な限り単純なモデルタイプのスイングに対して、二つの複雑性を同時に調整、制御しようとする余計な労力が発生することで、少なくとも最大飛距離は失われる可能性が高い。また特にストロークプレイ競技のようなラウンドにおいては、毎ホールの集中力を維持するためにより多くの労力を必要とするだけではなく、プレッシャー下における故障の大きな原因を常に抱えていることにもなる。
ボールが空中を真っ直ぐ飛んでいると言う事実をもって、たとえインパクトからどの方向にボールが打ち出されていようとも、ティーチングプロがそのプレイヤーに教えるべきなのはスイングのアライメントの調整のみであると断定するべきではないかもしれない。
しかし上述の二重補正を行うタイプの、最も極端なレベルのプレイヤーであっても、ボールが真っ直ぐ、かつ理想的な高さで飛んでいる場合、クラブヘッドとボールのコンタクトがほぼ完璧に行われているということは事実であり、そしてその方向はどのようなラインであれそのプレイヤーがクラブをスイングしたラインなのであり、またそのプロセスがどれだけぎこちなく、また複雑なものであったとしてもそのラインにクラブがスイングされたことも事実なのである。