第二十八章 トーナメントの分析: ドライバーショット 飛距離がものを言う

最もシンプルな質問のひとつは、プロがどれだけ遠くに、どれだけまっすぐ飛ばしたか、ということだ。

4ラウンドのにおける2812番ホールと1ラウンドの16番ホールで、全てのドライバーショットの飛距離とボールの最終到達地点を、合わせて515回を記録した(実際には520本のドライバーショットを記録したのだが、5本が記録されなかった、あるいは間違って記録されたりした)

また、研究チームは事前に近くの気象台に依頼して、大会期間中、各日2時間ごとに風の強さと方向を記録しておいた。実際、風の強弱の変化は全日程においてわずかであった。4ラウンドの平均風速は、それぞれ891416マイル/時だった(3.5m/s4m/s6.2m/s7.1m/s)。2番ホールでは、最初の2日間はアゲインストと右からの風、第3、第4ラウンドは強いアゲインストだった。8番と12番ではずっと強いフォローだった。16番では、観測を行った1ラウンドの際は、フォロー、もしくは左から風が吹いていた。

普通の風は20ヤードの価値がある

この大会中の風速は、決して普通の風以上のものではなく、平均して時速12マイル(5.3m/s)しかなかったが、ドライビングにかなりの影響を与えたことは、表28:1にまとめられた全てのドライバーショットの統計から確認することができる。

風の影響により、主にアゲインストだった2番と、フォローだった8番と16番で、プロがボールを打つ距離に約45ヤードの差異が生まれたことになる。

12番もフォローだったが、ここでは8番と16番より平均20ヤードも短い距離のドライバーショットになっている。これについては、ティーグラウンドから約270ヤード地点の左サイドに、フェアウェイの幅の半分を覆うバンカーが存在したことの影響であることは明らかである。つまり、フォローの状況で、ドライバーショットの後の二打目に距離を残した状態で正確なロングアイアンのショットを求められるとしても、プロ達はバンカーの手前でボールを止めるために、ドライバーではなくスプーンでのティーショットを選択したか、バンカーの右サイドを狙ってラフに打ってしまったために飛距離をロスしたかのどちらかであった。このホールのフェアウェイキープの割合が低いのは、このためと思われる。

ここでこの表からわかることは、一流のプロが直径1.68インチのボールを使い、平均的なランのでるシーサイドコースにおいて、ティーから約250yのドライバーショットを放つとき、30から40yの幅のフェアウェイにおよそ10回中7回の確率でキープをしたということである。フェアウェイをキープできたボールの飛距離の平均が全体平均よりもわずかに飛んでいる(258y)ことは驚くべきことではない。これは一つにはフェアウェイに飛んだボールの方がラフに飛んだボールよりもランが出たと言うことであり、もう一つにはフェアウェイを捉えられなかったボールは若干ミスヒットだったために飛距離をロスしたことを反映したものだろう。

風がどの程度ドライバーショットに影響を与えるのかについては、2番ホールにおいて、風の強さが時速8マイルから15マイル(3.5m/s6.6m/s)とおよそ倍に、また風向きが2時の方向から(つまりやや右方向からのアゲインスト)、完全なアゲインストに変化した差異に生じた差異に良く表れている。アゲインストが時速4マイル(2時の方向からの時速8マイルの風における、向かい風の成分の強さ)から時速15マイルに変わったことで、ドライバーショットに二つの変化が生じた。一つ目は、平均飛距離が242yから213yに減少したこと。二つ目は、これは科学的な見地からはそれほど「重大な」差異とは言えないかも知れないが、フェアウェイキープの確率が76%から72%に低下したことである。

最も成功した選手と最も失敗した選手を比較する

今大会の最長ドライブはロベルト・デ・ビセンゾで、フェアウェイドライブの平均飛距離は291y、うち最長ドライブは345yだった。しかしこの記録を含め、上位ドライブの70%の記録はフォローの状況でのドライブであることに注意すべきだ。フェアウェイをキープしたドライブで最短だったのは平均219yのハリー・ブラッドショーである。

研究チームが今大会におけるドライビングディスタンス上位9選手と、下位9選手を比較してわかったことは、上位選手のドライブは下位選手のそれに比べて、ほんのわずか遠くにドライブしているだけ(上位選手の平均255yに対して下位選手平均248y)だったということである。フェアウェイキープの精度についてもほぼ同じだった。

このプラス7ヤードがトップ選手のストロークゲインドにどの程度影響しているのかを計算することは可能である。もちろんその計算はティーからホールまでの全ての部門を通して行われなければならない。しかし他のショット部門の計算(これについては以降の三章にわたって説明を行う)を考慮して考えると、このわずか7ヤードの飛距離差によって、上位9選手は下位9選手に比べて、ラウンド全体の半分ものストロークゲインドを獲得していることがわかったのだ。

ティショットにおける「プラス20ヤード」の価値

このような計算をもう少し進めて、ドライブの長さを20ヤード増やした場合と、10回に3回はフェアウェイを外していたドライブをすべてフェアウェイキープした場合とで、スコアにどのような差が出るかを計算してみた。

その結果、全てフェアウェイキープの場合に1ラウンドで1ストロークのゲインであるのに対して、プラス20ヤード場合では1.2ストロークのゲインになることがわかった。

この結果はいささか読者を驚かせるものかもしれない。つまり、一流クラスのプロは、(バークデールでは平均してそうなった)10回に3回はフェアウェイを外すことやめて、ゴルフライターやファンの憧れであるフェアウェイキープ率100%のプレイヤーになることよりも、20ヤード遠くに飛ばすほうがより多くの恩恵を得られるということになる。

このことは、読者を驚かせるかもしれない。しかし、ジョー・カーや、ハリー・ウィートマン、あるいはアーノルド・パーマ−といった高いレベルで成功しているプレイヤー達が、しばしば不規則なルートでホールに近づいていったことを思い返せばそれほど驚くべきことではない。もちろんほんの少しでもフェアウェイを外してしまえば、タフなブッシュ、トラの生息地、あるいは敷地の境界フェンスなどのために、ロストボールやアンプレアブル、OBになってしまう可能性のコースではこの限りではないだろう。バークデールにも悪名高い柳の雑木林のようなそうしたエリアは存在するが、19646月時点でのバークデールのラフのほとんどのエリアでは、よほどフェアウェイから外れた場所でない限り、ここに集まったプレイヤーはその次のショットでパーオンを狙える場合が多かったのだ。

バークデールでさえ、飛距離は方向性よりも重要だった

別の見方をすれば、マスターズに出場する全てのプレイヤーが飛距離を伸ばすことを決意し、その結果ドライバーの飛距離を平均で5ヤードのばすことに成功するとすれば、そのために全ラウンドでフェアウェイを一回多く外すことになったとしても、トーナメント全体ではスコアを伸ばせることになるという推論も算出できるのだ(もちろんフェアウェイを外したボールが前述のような状況よりもひどい環境に打ち込んでいなければの話だが)。

今回の計測の結果から大まかに言えば、少なくともバークデールのようなコースで一流プロがプレイをした場合、ティーショットの飛距離はフェアウェイキープの精度よりも重要であるということになる。ただしどのようなコースをプレイするにせよ、ドライバーショットにおいて飛距離と正確性のどちらに優位性があるのかについてのバランスは、ラフがどの程度シビアなのか、また飛距離を優先した場合のアンプレアブルやロストボールなどのリスクに大きく左右される。

同様の研究をよりフェアウェイの広いコースで行った場合には、正確性を犠牲にしてもロングドライブを狙った方がより大きなアドバンテージを得られると予想される。フェアウェイから外れるたびにロストボールになるようなコースでは、そのバランスは正確性のほうに大きく傾くだろう。

少なくとも、バクーデールでの実験は、まだ若く、野心的なアマチュアが、自分のゴルフに最も魅力的なパワーを備えるまでは過度に正確性を意識しすぎることなく、まずはティーショットの飛距離を伸ばしていくことを決意することの励みになるはずである。あとから見ればそれが一番賢明なルートだったことになる可能性はある。

少なくとも、バークデールの実験は、野心的な若いアマチュアが、ティーショットの長さを伸ばすために全力を尽くし、自分のゲームに最も魅力的なパワーを与えるまでは、安定した直進性をあまり心配しないと決めた場合に、励みになるものである。彼は結局のところ、非常に賢明な線に取り組んでいるのかもしれない。

ただし、この結論は一流プロを前提としたものであり、一般的なゴルファーにも常に当てはまるというわけではないかもしれない。

アマチュアや女性プレイヤーをプロと比較すると?

バークシャー・トロフィーのトップアマ(ハンディキャップ2以上)とイングリッシュ・レディース・チャンピオンの一流レディースゴルファー(平均ハンディキャップ3)のドライビングについて、より最新の調査結果が出されている。表28:3は、バークデールに招待されたプロのドライビングと、内陸のコース、リトル・アストンで行われた通常のプロトーナメントの全選手(予選を含む)のドライビングとの比較である。

バークデールのプロは1.68インチのボールを使用したが、そのために受けた飛距離ロス(例えば10ヤード程度)は、フォロー3ホールとアゲインスト1ホールの平均値を使用することでほぼ相殺されているものとする。またアマチュア、レディース、リトルアストンのプロのドライビングは、反対方向に走る2つのホールで測定されたため、風の影響は相殺されていると考えられる。バークデールのプロは、その飛距離、および正確性がその他の数値を上回っていることで、トップアマチュアらの数値と比較して、1ラウンドあたり2ストロークをゲインしていると考えられる。

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