セクション7 トーナメントの分析

27章 トーナメントの分析:なぜ悩ましいのか

「ショーのためにドライバーを打ち、お金のためにパット打つ」というのはアメリカのプロゴルファーの間でよく知られた物言いであるが、つまり、プロゴルファーのロングショットがいかに華麗であっても、結局はパッティングが最終的かつ決定的にプロゴルファーのスコア、ひいては収入を左右するゲームの重要なパートであるということだ。

同時に、過去50年間、多くの一般ゴルファーが「ハリー・バードンやヘンリー・コットン、ベン・ホーガン、ジャック・ニクラウスのように打てたら...」(あるいは現在のアイドルが誰であれ)と思ったはずで、ここで一般ゴルファーが考えているのは長く、まっすぐ飛ばすことが重要であるということである。

一般ゴルファーがこのように考える背景には、プロゴルファーのプレーを分析する際に、いくつかのパートに分類し、各パートのパフォーマンスのスコア貢献度を評価し、その上でプロの標準的なパフォーマンスと一般ゴルファーのそれを比較するというタフで念の入った精神分析があるように思える。

こうした比較は、多くの場合どこを重視して分析するかによって結果が分かれるものだが、そうである必要はない。適切な観察を充分に行うことによって、プロゴルファーがどのようにして良いスコアを出しているのか、あるいは一般的なゴルファーがどのようにゲームをプレイしているのかを詳細に分析することは充分可能であり、その上でゲームの様々な局面における両者のパフォーマンスの比較をすることができるのだ。

さらに、一流プレーヤーの実力を正確に把握することで、ゲームの習得や上達のための基準を設定することも可能になる。

もちろん、我々は18ホールのスコアという全体的な基準はわかっている。しかし、その全体的な基準に貢献する個々の要素についてはどうか。どれくらいの距離を打つのか?どれだけ正確に打てるのか?150ヤードの距離からプレーするとき、ボールをどれだけホールに近づけることができるのか。30ヤードの距離では?バンカーやラフからのプレーではどうか?

こうしたことを研究することになった発端は、それを提案した我和研究チームのメンバーによって語られたことが元になっている。彼曰く、「我々は良いゴルフスイングを研究することを期待されている。そのためには、とりわけその良いスイングが他のスイングに比べてどれほどスコアメイクに貢献しているのか、あるいはそこにエラーが発生するときの影響の大きさとその頻度について知っておかなくてはならない。チームの何人過のメンバーはそれについてそれぞれ意見を持っているようだが、それが非常に正確であるとは言えないように見える。できればトーナメントのような現実的な条件下で、良いスイングの正確さと有効性について、基本的な測定ができないものだろうか」。

G.S.G.B.の科学者チームで普段ゴルフを実際にプレーしないメンバーから、このような子供じみた提案がなされるのは自然なことだったかもしれない。

そこでこの問題に取り組むため、19646月にロイヤル・バークデールで開催された「ダンロップマスターズトーナメント」のプレーを詳細に調査するための、オブザーバーチームを組織した。この大会は、英国を代表するプロゴルファーと数人の海外から選ばれたゴルファー、40人の招待選手が、最初の2日間に1ラウンドずつ、最終日に2ラウンドの計4ラウンドのストロークプレーを行うものだった。さらに、この大会では、1.68インチのアメリカンサイズのボールだけでプレーするという面白さもあった。

この大会のプレーを分析しても、もちろんプロと一般ゴルファーの比較分析をしたことにはならない。しかしこれ以後、研究チームはアマチュアゴルファーや女性ゴルファーについても類似の研究を行っている。本稿執筆時点では、これらはまだ一部しか分析されていないため、ここではプロゴルファーに焦点を当てるこものとするが、可能な限りアマチュアや女性ゴルファーとの比較も中間速報的に行っていくつもりである。

プロのプレーの一般的な水準を測定することに加え、その中で2つの興味深い直接比較をすることが可能である。一つ目は、ゲームの様々なパートにおける類似した改善(または悪化)の効果を検証し、スコアリングにおける相対的な重要性を知ることができる。二つ目として、トーナメントで好成績を収めた選手と、そうではなかった選手の総合的な成績を比較することができる。つまり、パッティングやロングアプローチ、ドライビングによって、上位入賞者が何ストローク獲得したかを正確に知ることができるのだ。

多くのゴルファーは、プロのトーナメントで上位9人と下位9人の主な違いはパッティングにあることが証明されるだろうと推測していたかもしれない。これは、正に証明された。しかし、その次に来る重要な要素は何か?チッピング?バンカーショット?ドライビング?ショートピッチ?

実は、そのどれでもなかったのだ。次に大きな差がついたのは、ミディアムアイアンショットとロングアイアンショットです。上位9名と下位9名のスコア差の80%以上が、このショットとパッティングによって占められていることがわかったのだ。

調査結果からのチャレンジ

プレイの主な分析から得られたもうひとつの驚くべき結果は、ありふれたトーナメントプロのスコアに、ドライブの長さを20ヤード追加し、それをすべてフェアウェイに置き、そこからホールまでのストロークの不正確さを半分にすることができれば、多大な違いが生まれるというものだった。

それは確かに、自分を高めるという意味では、かなり高いハードルを設定していることにはなるだろう。しかし、それがスコアにもたらす影響は、実に驚くべきものである。バークデールでのスコアが1ラウンド平均2ストロークオーバーの選手にとって、このような改善は彼の平均スコアを12ストロークアンダーにすることになるのだ。

つまり74というスコアが、62というスコアになるのだ。これは確かにスゴイスコアかもしれないが、その翌年、ゲーリー・プレーヤーはオーストラリアのチャンピオンコースで、1つのトーナメントで2つの62を記録している。

ここまでとはいかないまでも、この25%程度の改善をおオーケーなうことはトーナメントプロにとって無理な数字ではないはずだ。それによってラウンド当たりのスコアを34打縮めることができるならば、それは無名の若いプレイヤーがライダーカップレベルのプレイヤーの実績に引き上げるのに充分なスコアカットになるのだ。

何を、どこで、どのように見るか

チームは、次のような具体的な目標を掲げた:

  1. 一流のプロゴルファーのパフォーマンスを、ゲームのさまざまなパートで測定し、基準を設定すること。
  2. プロゴルフにおける各パートの重要性を見極める。
  3. 一流のプロゴルファーがどのような局面で他のプロゴルファーより優れているのかを明らかにする。
  4. アマチュアや女性ゴルファーについても同様の調査を行い、プロと比較して最も改善の余地があるのはどこかを明らかにすること。

ではこのためにはどうすればよいのだろうか?

もちろん、理想を言えば、全大会のすべてのストロークがどの地点から打たれ、どこでどのように止まったのか、フェアウェイで止まったのか、セミラフで止まったのか、深いラフで止まったのか、バンカーやハザードで止まったのか、あるいはカップインしたのかなど、どこに止まったのかを正確に記録したいところである。これは、100人の訓練された観測員が、トーナメントの4ラウンドの間、ずっとはりついて作業していればできることだ。

27:1 実際に観測員が使用した記録シート。ここでは12番ホールの左サイドのグリーン近くに位置する記録員がショットごとのボールの落下地点への角度を計測し、同様に右サイドに配置された観測員の角度の記録データを組み合わせることで、実際のボールの到達地点を割り出している。また後計測に備えて目測でのデータとの照合も行った。たとえば計測から導かれる結果がホールまで6フィートであるのに実際にはどう見ても20フィートという場合は、角度63°を68°と誤記したために起きるエラーであり、この場合は再計測を行った。

この実験を実現性と統計の快適な範囲にとどめるために、我々は実に1000個の「観測ホール」を分析することにしたのである。40人の参加者全員について、各ラウンドで24781213番ホール、さらに1ラウンドだけ16番ホールをどうプレーしたかを記録したのだ。(バークデールを知っている人は、12番ホール(少し長くなった)、13番ホール、16番ホールが、それぞれ13番、14番、17番となり、古い17番ホールが新しい12番ホールに置き換わっている)。

ほとんどの観測は光学機器を使って行われたが、中には目印(距離標など)を使って目測で行ったものもあった。観測の精度を高めるため、また偶発的な誤差をなくすためには、研究チームはかなりの困難に見舞われたのだが、ともあれ、大会終了時には、1000個の観測ホールのすべてのショットについて、ホールからの距離とライの種類(フェアウェイ、ラフ、バンカー、グリーンなど)を正確に記録していたのである。

この情報とPGAのチェックから、理論的にはあらゆる情報を推測することができた。たとえば、40歳以上の背の低い、ずんぐりした、はげ頭のプレーヤーが、30歳以下の背の高い、細い、眼鏡をかけたプレーヤーよりも5番アイアンをまっすぐ打っているかどうかなどだ。

しかし、最も有用なことは、ゲームを4つの単純な区画に分割することであったようだ: ドライビング、ロングアプローチ、ショートアプローチ、そしてパッティングだ。彼らはそれを実行した。

ダンロップマスターズトーナメントは、40人のプレーヤーで構成され、各プレーヤーはゲームの中で特別な存在であるため、他のトーナメントよりもプレーの水準が高く、上から下まで均一である傾向があることを、リーダーはここで覚えておくべきだろう。そのため、今回の大会では、上位9名と下位9名のプレーに発見された差は、最終的なスコアに反映されたとしても、能力、年齢、経験の程度を問わず140名ものプレーヤーが参加する一般的な大会の最初の2ラウンドよりも小さかったと言えるかもしれない。

しかし、この種の最初の実験には、少人数で4ラウンドを戦い抜くトーナメントが必要であった。そうすれば、研究全体の規模も大きくなり、通常のトーナメントのように、最後の2ラウンドで予選カット、つまり成績の悪いもう半分のプレイヤーをすべて排除するような特別な措置も必要ない。

実際、このマスターズでは、チームは、そのイギリスのシーズンにおける、すなわち賞金面でも、タイトル獲得に向けてのプロとしての価値、あるいはそれに向けて取り組みと言った点でも、「最高レベル」のプロのプレイを分析した。

その結果、ゲームの各部門における彼らのプレイについて何がわかったか、そしてその結果が何を意味するかが、次の4つの章の主題である。

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