第二十章 ゴルフにおける「曲がる」ショット スライスとフックの実用的メカニクス(4)

フックがチーピンし、スライスが舞い上がる理由

これまでの議論では、それぞれのスピン、つまりフック系とスライス系は方向が違うだけで、同様の曲がり方を見せるかのような説明を行ってきた。しかし、どんなゴルファーも実際にはそうではないことを知っている。すなわちフック系のボールでは低く飛ぶ傾向があり、場合によっては極端に低くなり、地面に着弾してからもランが多くなり、スライス系のボールでは高く飛び出してランが少なくなる傾向がある。

これはなぜなのだろうか。答えは、ゴルフスイングとゴルフクラブの非対称性にある。クラブシャフトのライ角はおおよそ55°前後であり、ゴルファーはそのクラブを45°から60°の傾きでその先のクラブヘッドをスイングしている。

従いクラブフェースを右に向ければ実際のロフトはより大きくなり(実際にやってみればわかる)、そのためボールの打ち出し角とスピン量がそれぞれ増えることになる。この効果による影響はたとえわずかなものであっても、高く舞い上がって右に曲がるスライスの特徴的な飛球を作り出すのには充分な影響を及ぼす。

 これと正反対の現象が起きているのがフック系の飛球である。フェースを左に向けると実効ロフトが減少することで、ボールの打ち出し角度が低くなるとともにバックスピン量も減少する。

ローフェードとハイドロ−

このことが、プロや上級者がフェードを打つときに、通常のスタンスポジションよりもややボールを右足寄りに置き、両手がクラブヘッドよりも前方にある状態、つまり充分なハンドファーストの状態をキープしてインパクトをすることによって、クラブフェースを「フード(被せる)」させる理由である。これがクラブフェースの向きがクラブヘッドのラインよりもわずかにオープンでありながら、ロフトが多くなりすぎない状態をつくるのに効果的なのである。

同様に、木がスタイミーな状況などで、高いビッグフックを打つ必要がある場合は、ライの状況の許す範囲で、上級者はボールをスタンスのより左足よりに置き、クラブヘッドを手元よりも前方にムチの様に走らせてインパクトを迎える。このようにすることで、クラブフェースは打ち出しラインよりやや閉じた状態でありながら、実効ロフトを減らさないように調整する、あるいは増やすことさえ可能になるのだ。このようなことを行わない場合、スイングのラインよりも左を向いたフェースで打撃を行うため、プレイヤーの望む飛球ではなくダックフック(チーピン)になる可能性が高い。

インテンショナルフェード、ドローの長所と短所

一般にロングショットにおいては、完全なストレートボールを打とうとするよりも、フェードあるいはドローを発生させるスイングのほうが信頼性が高いと言われている。しかしよりよいスコアを目指す上で、フェードとドローのどちらが有利であるのかについては、かなりの議論があるところだ。著名なプロゴルファー、例えばホーガン、アリス、パーマ−などは、基本的なロングショットととしてどちらかを使用するために、スイングを何度も変更したと言われている。

「フェーダー」の主張するところでは、フェードボールのほうがトラブルになるところまでランが出てしまう危険性が低いが、ドローではそれがあり得るとしています。また仮にフェードがスライスに劣化したとしても、少なくとも打ち出しが高くなることで、ラフに行くとしてもそれなりの飛距離を生み出せるのに対して、ダックフックはティーからすぐ近くの地面に着弾してしまうとしています。

一方「ドローヒッター」は、フェアウェイに放たれた場合、ドローボールの方がランが出るために余分に飛距離が稼げること、また最悪のスライスがコースから目標から遠く離れたラインに到達するのに対して、最悪のフックはその度合いが少ないとしています。

どちらの議論にも実態があり、この点について「確固たる」答えがあるわけではない。ただ多くの場合、プレイをする特定のコースによってその有利不利が存在することは事実である。我々が知るところでは、ローハンディキャップのあるプレイヤーは、マッチプレーの競技において、シダが周囲に立ち並ぶコースにおいて、彼が言うところの「ホーガンフェード」をラフに打ち込みすぎたために、実際の勝敗が決するよりも早くボールを使い果たしてしまったことで棄権したという逸話がある。

障害物を避けるためにカーブショットが不可欠である場合を除き、意図手にフェードもしくはドローをプレイ「するべき」という議論全体が、あまりにも単純過ぎる欠陥のある考察に基づいている可能性がある。心理的には、プレイヤーは右サイドのラフを狙ってドローする(あるいは左サイドのラフを狙ってフェードする)ボールのほうが、フェアウェイ中央に向けてストレートボールを打つ砲が「安全である」と感じるかも知れない。しかし実際にはその思考は、メカニクスにおいてその他のエラーが完全に発生しないという前提に基づいた安心感である。

もしこのプレイヤーが左サイドのラフ(フェアウェイ中央から20ヤード左側)にボールを打ち出し、「フェード」して中央に戻ってくるという想定をした場合、エラーの発生可能性について言えば、プルストレートが発生してそのまま左ラフに飛んでいく場合、スライスが強くなって右のラフまで曲がっていく場合もあり得る状況というのは、フェアウェイ中央にストレートボールを打とうと考えて、フックもしくはスライスが発生してどちらかのサイドのラフに到達するという可能性とほぼ同じである。

また、ドロー、もしくはフェードを打とうとすることは、最も単純なアクションである、スイングのラインとインパクト時のフェースをスクエアにするというスイングから、少なくとも二つの調整を加えなくてはならないスイングを毎回一貫して始動しなければならないことも事実である。このことはプレイヤーが、可能な限り単純な方法でボールを打とうとしている場合に比べて、肉体的にも精神的にもより多くの負荷を自分にかけていることを意味している。

ボールが曲がる要素についてのまとめ

打ち出されたボールが意図したラインから逸れていく要因は、まとめると以下の四つである。

  1. 傾斜したライから、完全に水平なスイングを行う。
  2. ボールをクラブフェースのオフセンターで打撃する。
  3. クラブヘッドを目標方向から右もしくは左に逸れた方向にスイングしてインパクトする。
  4. インパクトにおいてクラブヘッドがスイングされる方向と。クラブフェースの向いている方向が右、もしくは左にズレている。

上記の 3 のようなプルショットとプッシュショットは、通常のストレート ショットと同程度の飛距離となる。純粋なサイドスピンを発生させる上記4のようなショットは、主にボールのスピン軸が斜めになる影響によって、通常のショットよりも飛距離をロスする場合が多く、また少なくともドライバーショットにおいては、理想的なフライトパスよりもスライスによって高く舞い上がる、あるいはフックによってダッキングすることで飛距離をロスする可能性が強い。(しかしながらフックボールにおいては、地面が固い場合、あるいは右からの風が強い場合にランが多く出ることで、これらの前提を補うこともある。)

上記2のようなオフセンターヒットの場合では、常にキャリーとランの両方にロスが発生するが、これはインパクトにおいてクラブヘッドがターンすることによってエネルギーの損失が発生するためである。

したがい、クラブフェースのセンターで打撃されたストレートボールを生み出すにはどうすれば良いかという、純粋かつ実質的な取り組みは決して無視出来るものではない。そして当然のことながら、モデルの単純性に最も近づく可能性がある点において、ストレートショットはいかなる場合でもアドバンテージを有していると言えるのだ。

 

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事