25章 ボールの飛行 理論をゲームに活用する

ドライバーのティーショットのような標準的な条件下のショットでさえ、プレイヤーごとにだけではなく、同じプレイヤーによるショットごとでも、かなりの変動が生じる可能性があり、実際に発生している。風、湿度、温度などの大気条件は言うまでもなく、スピン、揚力、抗力からキャリー、ランに与える全てのものは変化する可能性がある。

研究チームは、ボールの弾道に影響するこれらの要素を、ドライビングマシーンによる実打の実験と、コンピューターを用いた理論的な研究の双方を用いて分析を行った。

コンピューターを使用する利点は、複雑な実験を、複雑な機器を準備しなくとも実行できる点にある(もちろんコンピューターがあればの話だが)。例えばボールの重量、サイズ、反発係数を任意に設定してプレイした場合の影響を、実際にボールを製造することなく調べることが可能だ。またどのような強さの風が、ボールの弾道にどう影響するのかをハリケーンレベルの風速も含めて調べることができる。

現実に実験を行うことが到底不可能な条件、例えば真空状態、水中、シロップの中、または地球よりも遥かに重力の小さい惑星で、ボールをドライブしたらどうなるか、あるいはより密度の低い大気、またはボールが負の質量をもち、打撃に反応して反対方向に飛んでいく状態などの空想にふけることも可能だ。これらの条件は我々が通常ゴルフを行う環境とは遠くかけ離れているものの、興味をそそることは事実であり、時として有益である。

コンピューターを使用した仮想実験の欠点は、基本的な理論として正しいとしても、そこに100%の確信が持てない点である。この一点の理由によって、やはり実地のテストを行うことによってコンピューターが適切な結果を示していることを確認する必要が生じる。この点ドライビングマシーンは、レンジで毎回同じようにボールを打ち出すことで、コンピューターよりも遥かに視覚的に影響をデモンストレーションする事が可能だが、いっぽうで(あるいはそのために)コンピューターが数秒で求める結論を導き出すのに、ボールを何球も打ってひたすら計測を行うことに数時間を要するかも知れない。

かくして、研究チームは双方の種類のテストから結果を収集した。本章の実験で使用したドライビングマシーンはダンロップスポーツ社のもので、同社もまた独自の実験によって多くの実験結果を提供している。

ドライバーショットの飛距離の計算式

これらの実験から判明した、最も注目すべき発見の一つは、ドライバーの飛距離と、ボールがクラブヘッドを離れた時点での初速の関係はかなりシンプルなものであるということだった。英国サイズのボールが水平から10°の仰角で打ち出された場合のキャリーを計算するには、速度(フィート/秒)を1.5倍して103を引いたものになる。

キャリー=1.5v – 103

秒速60m/sのボール初速の場合、1mは3.28フィートとなるので、

キャリー=1.5 x 60 x 3.28 -103 = 192.2y となる。

メートル表示に換算するには、1.5 x 3.28 =4.92 の係数を使用すればよく、

キャリー= 4.92v – 103

という数式が成立する。

この公式は本書の以前の章で説明した各種空力の複雑な相互作用の計算結果から導き出されたものであり、常に全ての状況で正確に当てはまるというわけではないが、無風状態の広範な通常に打撃された場合のドライバーショットにおいて有効である。

されにこれに平均的なランの距離を追加すると、総距離についても同様に公式化することが可能である。

総距離(キャリー+ラン)= 1.25v – 27

メートルに換算すると

1.25 x 3.28 x ボール初速  -27

=4.1 v -27

となる。

よってボール初速200フィート/秒(時速136マイル、これはヘッドスピード100マイル 44.44m/sが必要)でで打つ出されたボールは、最初の公式に当てはめれば197ヤードのキャリーとなり、二つ目の公式に当てはめれば223ヤードの総距離となる。双方の公式とも100170マイル/時、キャリー120270ヤードの範囲のドライバーショットにおいて、かなり有効に機能するものである。

ここでは、コンピューターによる演算と、ドライビングマシーンによる実験の双方の結果が一致しており、コンピューターによる計算の理論的背景の健全性が確認された点で好ましい結果であり、研究チームが後に同様の方法を幅広い問題に適用できることとなった。

ドライバーショットの最適な仰角

弾道に関して研究チームが取り組んだ問題の一つは、全てのゴルファーにとっての関心事である、「最も総距離が出るボールの打ち出し角度は何度であるのか」ということだった。

最も単純な弾道の状態、つまり揚力も抗力も発生しない真空状態においては、45°、つまり水平と垂直の中間に打ち出された場合にキャリーが最長となる。大気中であっても、スピンの発生していないボール(抗力は発生しているが、揚力は発生しない)はやはり45°付近が最適となるが、抗力の計算がかなり複雑になるため、適応される範囲は非常に狭くなる。

なぜ45°前後が最適になるのかを考えるには、ホースで水を撒く状態を考えるとわかりやすい。水を撒く角度をすこしずつ上に向けていくと、水が最も遠くに飛ばせるのは45°前後となり、それ以上の角度になると着地点が再び近寄ってきてしまう。

45°では、水が送り出されるエネルギーの半分が、水が上空に留まることに使用されるため、放物線の頂点を超えて着地するまでの時間を最大限に稼ぐことができる。この着地までの時間を長くするために仰角を上げると、前方に移動するための速度が低下し、前方への移動エネルギーを上げるために仰角を低くすると、上空に留まる時間が減るために、前進速度が効果を発揮するだけの時間を確保できない。

スピンのかかっていないボールや、小石を投げた場合も同様だが、ゴルフのショットにおいて発生する揚力は、この状況を劇的に変化させる。揚力によってボールは瞬時に長く空中に留まることができるようになるため、インパクトによって得られるエネルギーを、高く打ち出すために使用する必要がなくなる。言ってみれば、揚力は、ボールが空中を移動する際に「滑る」影響を与える。これによってボールをより低い確度で打ち出すことが可能になり、第23章で紹介された技術用語を使えば、水平要素の速度を向上させることができるのだ。

揚力がボールの進行方向に対して常に直角に作用することを考えると、ボールの打ち出し角度をやや低めにした方が良いこともすぐに理解できるはずだ。図25:1の通り、ボールが最高到達点に達するまでは、揚力はボールが前進するエネルギーに抵抗する影響をもたらすことになるが、ボールの打ち出し角度が低くなるほど、揚力が前方方向へのエネルギーに対抗する作用も減るのだ。

25:1 揚力がボールをを後方に引き戻すようす。ボール進行方向に揚力は垂直に発生するため、打ち出し角度が高いほどボールを後方に戻す(飛ばなくなる)成分が強くなる。

キャリーを最長にする

研究チームのテストの結果では、最大のキャリーを達成する打ち出し角度は、一般的なボールスピードおよびスピンレートの場合で、およそ20°前後であることが示された。しかし一般的に良好なドライバーの打ち出し角度は20°ではなく、10°前後である。

この隔たりには、一部のプロが高くティ−アップしてわずかにアッパー軌道で打つことでより遠くにボールを飛ばせるという信条のカギがあるように思える。

この発想は正しい。それによってより遠くに飛ばせる可能性はある。しかしそうなる理由と「ボールにトップスピンを与える」こととは何の関係もない。どのような良好なドライバーショットにおいて、あるいは完全なトップを除く全てのドライバーショットにおいて、「トップスピン」は存在しない。良いドライブになる本当の理由は、ドライバーを水平にスイングしたときの約10°の仰角に、ほんの少し角度を上乗せできたということであり、その結果ドライバーがボールに与える初速とスピンレートに対して、最適な打ち出し角度である20°に近づけることができたとうことである。

ではドライバーの表面を削って、ロフトを1213°にすることで、 打ち出し角度を20°に近づけるというのはどうだろうか。しかしこれは思った通りの結果にはならないのである。ドライバーのロフトを12°にすることで、より衝突が斜めになるため、ボールが前方に移動するための初速は6%減少し、バックスピンは倍増してしまう。その結果、ショットは弱くなり、より高く上がり、遠くに飛ぶ変わりに、当初のドライバーよりも飛距離が落ちてしまうのである。

つまり打ち出し角度を上げることで飛距離を伸ばすためには、ボール初速を下げず、またバックスピンも増加させないという条件が課される。これは通常のインパクトの動作でボールを打撃する際のタイミングとポジションを調整する事で達成が可能だが、水平よりもややアッパー軌道になるだろう。

ロフト10°のドライバーで打ち出し角度を20°にするには、水平から13°アッパー軌道でスイングする事が必要になるが、これはほぼ不可能である。しかしこれを行う事ができれば、理論上は最大のキャリーを得ることができる。

トータル飛距離を最長にする

ここまではキャリーを最大化することのみを考えてきた。しかし通常我々がドライバーショットに求めているのは最長のトータルの飛距離、つまりキャリーとランを足した距離である。

着弾したボールにどれだけのランが出るのかは、ボールが着弾する際の速度と角度、芝生の性質、長さ、水分、あるいは地面の固さなどの要素に明らかに影響される。

実際にこれらはかなり変動するが、あらゆるショットにおいて共通している事実が存在する。それは着弾時のボールの前進速度が速いほど、ランの距離も長くなるということである。従い、低く打ち出されたドライバーショットが、そのキャリーをいくぶんロスするとしても、ランが長く出ることでそれを補ってそれ以上のものになる可能性もある。よって打ち出し角度が20°になることは、湿度の高い内陸の2月のフェアウェイでは最適であっても、乾燥した夏の海辺のコースでは10°前後が最適になる可能性がある。

さまざまな状況を総合的に考えると、総距離が最長になるのは、およそ12°〜13°の打ち出し角度であり、多くの場合、多くのプレイヤーの打ち出し角度よりもわずかに高い確度になるとはいえ、それほど大きな乖離があるわけではない。

実際には一般論として。ボールの軌道を高くするというかなり精力的かつ抜本的な取り組みによってさえ、総距離を伸ばすことについて得られる効果は比較的大きなものにはならない可能性が高い。多くのゴルファーにとって、とりわけブリティッシュ諸島のゴルファーにとっては、ボールを正しく、最適なタイミングで捉えるということの方が、「少しでもボールを高く打ち出す」ことよりも、良好なドライバーショットを達成するためにははるかに重要であることになる。

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