スピンがもたらす「揚力」

次に、スピンがかけられたボールが大気中を通過するときに何が起きているのかを見てみることにする。ここで発生する効果は、ボールがどの方向あるいは角度でスピンしているかに関わらず同じであるため、再び水平視点でイメージをすることが可能になるが、今回はボールにバックスピンがかかっている(図24:3)。

図24:3 この写真も再び流体とシリンダーに粒子を流して撮影したものである。ボールの前方では粒の長さが短くなる(気流が遅い)ことはスピンしていない状態と同様だが、ボールの上部では粒が長く、つまり気流が早くなり(気圧は低くなる)、下部では粒が短くなる(気圧が低くなる)。この結果ボールの下部が高気圧、上部が低気圧となることで発生しているのが揚力である。

表面のスピンは、ボール周辺の大気にかなりの量の抗力を発生させる。これによってボールの上部の気流の動きがより活発、かつ速くなるが、これはその部分の気圧が低下することを意味している。また同時にボールの下部の気流はあきらかに遅くなっており、スピンがかかっていないボールの場合と比べ、同じ地点では気圧が上昇することとなる。ただし、気流が静止しているボールの前部よりは気圧は低くなる。

ボールの下部よりも上部の気圧が低いと、そこには「揚力」、つまり気圧の低い方向に押し上げようとする作用が発生する。飛行機の翼は同様の効果を、特別な「エアロフォイル」形状と、気流に対してわずかに角度をつけることで作り出している。

「揚力」の強さは、疑いなくボールの上下で発生する気圧差によるものだが、これはスピンしているボールがいかに効率よく表面付近の大気を動かせるかにかかっており、つまりこれはボール表面の凹凸に大部分依存している可能性が高い。

これがゴルフボールに「ディンプル」がついている主たる理由である。かつての「ガッタパーチャ」ボールを最初にしたプレイヤーは、表面が滑らかなボールにどれだけバックスピンをかけたところで、ほとんど揚力を得ることはできず、その結果今日の上級者が 220y以上のキャリーを得られるのに対して、せいぜい70y程度しか飛ばないということに気づいたのである。

スピンによってボール表面の大気がより多く動かされることのもう一つの影響は、ボール後方にできる気流の航跡をやや大きくし、発生する気流渦の面積およびエネルギーを大きくすることでボール後方の気圧を上げる(前部との気圧差を減らす=飛ぶ)ことを、揚力を誘発すると同時に行う点である。

スピンは揚力と抗力の両方に影響する

これら抗力と揚力の、現実のゴルフにおける効果を予測する場合、これらのフォースがどのように作用しているかのいくつかの問いに答えておく必要がある。例えば、ボールの重量に対しての抗力と揚力の作用、大気中をボールが移動する速度、スピン速度、あるいはその両方に応じてのこれらフォースの変化などである。

これらの問いに正確に解答するには、非常に難解で複雑な科学、つまりスピンをしている凹凸のある球体の表面付近の気流に関する数学的見解と、それらを裏付ける実験の設定の双方が必要となる。しかし大まかに言えば、ボール速度が向上するほど抗力も増加するが、抗力の増加の方がボール速度よりもやや大きな比率で向上するということである。例えば、ボール速度が秒速100フィートから200フィートと二倍になると、そこに発生する効力はおよそ2.5倍になる。

スピンの速度が速くなっても抗力は強くなるが、その割合はやや穏やかになる。毎秒100回転のボールで発生している効力は、毎秒60回転のボールで発生している抗力よりもわずかに20%増えるのみである。

揚力も気流の速度とスピン速度に応じて上昇するが、抗力の場合から想像されるとおり、追加されるスピンと追加される速度に対して急激に増加する反応を示す。

要するに抗力と揚力の双方で、大気中を移動するボール速度の上昇につれて急激に上昇することは一致しているが、スピン量が増加することでは揚力が抗力よりもより急激に発生するということである。

抗力と揚力が基本的な弾道を形成する

ロングドライブなどの ショットでボールが飛行している際、これら抗力および揚力が変化することはあきらかに重要である。 たとえば、ボールがティーから離れた直後、抗力は 3 4 オンスになり、揚力は約 2.5 オンスとなる。 ボールが地面に向かって落下するまでに、抗力は約 1 オンスに低下し、揚力はわずか 4 分の 1 オンス程度まで低下するが、双方とも飛行中はゴルフボールの重量である1.62オンスと共に作用する。

従い、飛行の開始時点では、揚力はボール重量を上回っている可能性がある。その場合、ボールの飛行経路は、飛行が安定した瞬間から上向きのカーブを描くこととなる。ただしそれはそれほど顕著なものではなく、この段階であっても1オンス程度のボール重量を上回る揚力は、100フィートの飛行でわずかに1フィートだけ直線軌道の上に軌道を変化させる程度であり、この上昇率ではプレイヤーから感知することはできない。(ただし、例えばやや微風のアゲンストの打ち下ろしなどの状況で、かなり強くダウンブローに打った4番ウッドなどでのショットの場合、ボール軌道は水平より低い方向に打ち出され、その後正常に見える弾道までカーブして上昇するのに充分なバックスピンを付加されている可能性はある。)

いっぽう抗力は、ボールが打ち出されたその瞬間から、大気中を通るボールの動きに抵抗を加えるため、ボール速度およびスピンレートを着実に減少させ、その結果発生している揚力の強さも減少させていく。このようにして、かなりわずかな時間で揚力はボール重量の1.62オンスを下回ることとなり、飛行軌道は下向きのカーブに変化し始めるが、それでもこの段階に移行するのには、完全に凹凸のないボールや、バックスピンがまったくかかっていないボールよりも早くなることはない。

ボールが大気中を前進する速度は、スピンレートよりも遥かに早く減少する。ドライバーショットの着弾時ですら、ボールはインパクト直後の最大75%程度のスピンを維持している。

現実のドライバーショットは、打ったプレイヤーが全く同じように感じる場合でも、かなり異なっている。優れたプレイヤーのドライブはわずかに上向きのカーブ軌道になるか、ほぼ直線の軌道を維持する可能性があるが、後者の場合の方がより飛んでいる印象を受けるはずだ。

この直線に近い初動の軌道は、良好なショットの特徴的な弾道であり、全キャリーのおよそ2/3の距離で最高到達点を迎える。ボールが遠くに到達するにつれて、ボールの大気中の移動速度とスピンの双方が減少するため揚力も減少することで、ボールの軌道は投げられた石やバックスピンのないボールのような放物線になるように見える。

図24:4 ドライバーショットの非対称的な弾道。ショットが放たれた直後はスピンによってもたらされる揚力が大きいため、重力に対抗することでボールが直線的に飛んでいくように見えるが、後半に揚力が減少するにつれて通常の放物線軌道に近くなる。

ディンプルの実践科学

ボールにバックスピンによって揚力を与えるためには、ボールの表面にかなりの凹凸が必要であることは前述した。多かれ少なかれ、ボール表面のあらゆる種類の凹凸がボールに揚力を与えることを可能にしている。しかしゴルフおいては、例えば外観や製造の容易さなど、他の要素も発生してくる。

ガッタパーチャボールがより遠くに飛ぶには、ボール表面にあらかじめ凹凸をつけておくことが必要であることが発見されて以来、あらゆる種類のマーキングが試されてきたが、今日ではシンプルな円形のディンプルが最も有効であることが立証されている。

しかしそのサイズ、形状、および深さなど、それぞれの何が最善であるのかについての科学となると、非常に複雑なのである。最適解は、様々な効果のバランスを取ったものでなければならない。例えばディンプルの深さを浅くするほど、発生する揚力も小さくなる。しかしそれを深くすれば、抗力も大きくなってしまうので、この一つの要素をとってもその計算は複雑である。

さらに、そこに関与しているフォース群は、単純な表面のマーキングのデザイン変更だけで変化するものではない。それぞれのディンプルの内部構造、エッジの鋭さ、また深さなどは全て、ボールがどのように反応してスピンを起こすと考えられるかに、かなり複雑な影響を与える。この問題を完全に究明するには、空力に関してのかなり分厚い論文が必要になるが、それでもなお、今日完全に理解されているとは言えない詳細な問題が存在していると思われる。

しかしこうした様々な要因が存在するいっぽう、ディンプルの深さについては0.013インチが最良の結果をもたらすことがわかっている。

ディンプルの深さを変えていくとどのような影響が出るのかについては、図24:5のグラフにまとめてある。これらの結果は、ダンロップ社がボールにディンプルをスクエアメッシュのマーキングをほどこして実験したものだが、その結果最大キャリーはわずかに理論値を下回る、深さ0.010インチの時に得られることが証明された。

図24:5 ディンプルの深さを変えていったときの飛距離の関係性。この実験はダンロップスポーツのドライビングマシーンによる実験の結果である。ここではスクエアメッシュのディンプルを施して実験を行ったが、実際に市販されている丸いディンプルで同様の実験を行うと、ここまでわかりやすいグラフにはならないが同様の結論をもたらす。よってディンプルの深さをその配置や範囲を変更する事なく変えてはいけない。スクエアメッシュの場合、その深さをその他の条件を変えることなく調節できる。

しかし当然のことながら、ゴルファーがプレイする全てのショットに最適と言える、特定のディンプルの深さやデザインが存在するわけではなく、選択されたデザインと深さは、常に計算された諸要素の妥協点である。

もし誰かがあらゆるショットにおいて常にあともう12ヤードの飛距離を捻出したいと考えるのであれば、ゴルフのショット数の数だけディンプルのタイプもしくは深さのバリエーションが必要になるだろう。まずはロングショット、ミドルショット、ショートショット、また風はフォローかアゲインストなのかによって変わってくる。さらにはクラブの番手ごとに異なるボールを使用することが必要になるだろう。

しかし幸いにして、全てのショットにおいて標準的なボールを使用することでロスする飛距離は、最悪の状況下でも12y程度の問題にすぎない。そしてゴルフというゲームにおいて飛距離が本質的に重要であるのはロングショットのみであるため、標準的なディンプルは良好なゴルファーのドライバーショットにおいて最大キャリーをもたらすよう設計されている。これについては第26章で説明を行う。しかし飛距離とスピンに関してここで言っておくべきことがあるとすれば、標準的なディンプルは現代のボールのサイズと重量に充分に適切なものであるということのみである。

やや非現実的な話

ディンプルのない完全に滑らかな表面のボールには、揚力が発生しないことは前述した。現実にはボール初速とスピンの関係で、滑らかな表面のボールにはマイナスの揚力が発生する可能性があるため、スピン量ゼロで打たれた通常のディンプルのボールよりもさらに飛ばない可能性がある。図24:6はスピンのない状態で打ち出されたボールが、理想的なスピンのかかったボールと比較してどのような弾道になるかを表したものだ。ここでは同時に、真空状態(重力はある)で打たれたボールの弾道も表示している。

 図24:6 やや非現実的だが、通常のショット、真空状態でのショット、スピン量ゼロのショットの飛距離の比較。スピンゼロ、真空状態の二つが、著しく飛ばないことがわかる。ちなみに滞空時間は、スピンゼロでは2.1秒、真空状態では2.2秒、通常ショットでは5.5秒であった。

ここで驚くべき事実は、真空状態で放たれたショットは、通常のショットに比べて遥かに飛ばないということである。言い換えれば、大気中を飛行中にスピンによって得られる揚力は、空気抵抗によるロスを補う以上の恩恵をもたらしていることになる。

ここでスピンのない状態、あるいは真空状態で放たれたショットの、弾道の低さに注目してほしい。通常のショットでは最高到達点が70フィートにも達しているのに対し、他の二つのショットでは20フィートにも満たないのである。

もしこの二つのショットの打ち出し角度を45°にできるとすれば状況は異なる。この場合、真空状態でのショットは430yキャリーで飛ぶことになる。少なくとも地球上において、我々が真空状態でゴルフをプレイすることはないだろう。しかし、大気がなく、重力も地球の1/6しかない月面上でゴルフをするとすれば、どのような展開になるのかを想像することは面白いかも知れない。

未来の宇宙飛行士がゴルフクラブを持って月に行った場合、45°の打ち出し角度で放たれたドライバーショットは1.5マイル(2,400m)以上とぶことに気づくかもしれない。パー53マイル以上の距離が必要になり、18ホールのゴルフ場をつくるには30平方マイル以上の敷地が必要になるだろう。他にも楽しみがあるとすれば、例えばスライスとフックを打つことも不可能だ。ロングドライブの必要性に加えて、克服すべき想像も付かないハザードも存在するかも知れない。しかし1.5マイルのドライバーショットは1,800フィートの高さの「月の丘」を楽に超えていく可能性もあるので、リカバリーショットにも大きな可能性が秘められるゲームになるかもしれない。

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