セクション8 より広範な研究に向けて

第三十二章 クラブ設計の可能性

「クラブは、伝統的および慣習的な形状と構造から実質的に異なるものであってはならない」。この「ゴルフ規則」における文言は、ゴルフクラブにおける賛否の分かれるイノベーションを、歓迎する場合にも、禁止する場合にも、同様に活用することができる。また、クラブ設計の改良について、原則的に何が許され、何が許されないかについての本質的な哲学を要約しているようにも思える。

ゴルフが本質的にはそれまでと同じゲームのままである限り、クラブの設計を改良することを不当だと考えるゴルファーはほとんどいないだろう。一方、ゲームをあまりにも簡単にしすぎたり、あるいはすべてのゴルファーにとって等しく簡単 にしすぎたりするような新しいクラブ設計を擁護する人もほとんどいないだろう。

実は簡単すぎるゴルフというのは夢物語ではないかもしれない。まっすぐ飛ぶドライブを事実上保証し、ボールの飛距離を50ヤード伸ばす効果があるティーを作ることは十分可能かもしれないのだ(付録II参照)。科学的研究が究極的にゴルフにとって有用である場合の一つの側面は、時代の中で発生しうる明らかに望ましくない本質からの逸脱を予見し、それをルールメーカーに警告することかもしれない。

しかし、一般論としては、どのようなゲームであれ、その本質的な攻略やそのために必要なスキルが無意味なものになることを許してしまうものではない限り、プレーヤーがそのゲームでのレクリエーションを楽しむのに役立つ設計の改良を期待することは、明らかに健全なことである。それは、ゴルフに限らず、人間が自分の娯楽や満足のために考案し、認知された難易度やルール、用具を利用した人工的な挑戦の全てに当てはまることだろう。

基本設計はどうなっているのか

クラブメーカーがゴルファーに提供するクラブの製作を行ってきた歴史において、科学をどの程度まで役立てたかは、控え目に言っても疑わしいものである。一般論としては、クラブメーカーが科学の可能性を真剣に考え始めたのはごくごく最近になってからと思われる。

逆に言えばゴルフの歴史の大半を通じて、製作されたクラブのほとんどは「設計」されたものではなかったと言える。フィルプのような偉大なクラフトマンたちは、同業者たちよりも優れたクラブを製造してきたが、それらのほとんどすべてが芸術、本能、感触、手触りによるものだった。1920年代にクラブが一般的に大量生産されるようになって以来、ほとんどすべての新しいモデルは、その製作に最適となる設計のための基本的な調査に依存するよりも、おそらくはプロフェッショナルの提案やクラブメーカー自身の直感、あるいは外見上の理由に依存したもものに、わずかな経験則の変更を加えることによって生産されてきた。クラブのマーケティングにおいても、ファッションは非常に大きな役割を果たしているように思えるが、クラブにおけるファッションの変遷は、女性服のファッションの変遷に負けるとも劣らない速さで変化している。

実際、クラブ製作サイドと科学については、1度や2度の偶然のニアミスはあったかもしれないが、科学的に自問自答を繰り返してきたメーカーがあったかは疑わしい。すなわち

クラブはいったい何をしなければならないのか?

そして、どのような設計がそれを可能にするのか?

このセクションのこれ以降では、正しい質問を見つけ、場合によってはその答えを提案するための、チームの予備的な試みを報告するものである。

クラブについての疑問

まず、論点を明確にする必要がある。現代のクラブをよく見てみよう。表32:1に典型的なドライバーと典型的な5番アイアンの寸法と重量を示している。

これらの情報のほとんどは読者諸君もよくご存知のものである。「ライ」とは、クラブヘッドが接地している時にシャフトが地面とつくる角度のことである。そして、「クラブ重量モーメント」と「慣性のモーメント」についても説明しなければならない。どちらも実質的に、クラブの重さと長さの複合的な影響を測定するものである。

前者は単純で、クラブを片方の手で水平に前に持ち、その時に感じるのがモーメント、つまり、持っているポイントに対するクラブの重さの「引き」である。クラブを先端から12インチのところで持つと、メーカーが「スイングウェイト」と呼ぶものを感じることになる。

2つ目はもう少し複雑だ。手首の動きだけでクラブを振る場合、プレイヤーが感じているのがクラブの慣性モーメントであり、指を通して加えるどんな力に対しても、手の周りでヘッドをどれだけ速く振ることができるかを支配しているものである。

つまり、クラブを静止した状態で片手で持ったときに感じる重量と、クラブをスイングしたときに感じられる慣性の抵抗をそれぞれ数値化したものだ。

これらの性質に加えて、シャフトのしなりの強弱、またそのほかの細かい要因によって、クラブをスイングしたときの「フィーリング」が決定される。そしてこのことが、長さの異なる、例えば同じようにセッティングされた3番アイアンと8番アイアンとでは、振り心地が同じにならないことの理由でもある。

次の章では、クラブセットのフィーリング、マッチング、スイング・ウェイトの全問題の考察に移る。しかし、その前に、ゴルフクラブがどのような道具であるかについて、明白でわかりやすい特徴を詳細に見ていくことにする。

クラブヘッドには何が必要か?

もしどのようなクラブを製作してもよいのであれば、クラフトマンがまず自問すべきことは、

クラブヘッドの最適な形状

クラブヘッドの最適な大きさ、奥行き、フェース全長、厚み

最適な重量

その重量をどのように配分し、バランスを取るのがベストなのか

フェースの長さはどのくらいで、どこに、どのようにマークされているべきか

等々、疑問は尽きない。そしてそれぞれの要因が相互に作用することで新たな問題が発生するため、無限に疑問が続いていく。

どのような解答も、クラブヘッドがスウィング中に何をする必要があるのかについての方針が明確にイメージされない限り、正確に問題を解決するものにはなり得ない。

これについては、第 22 章で説明したインパクトに関する基本的事実を想定した方が効率的だ。つまり、インパクトの時間は十分に短く、クラブシャフトは十分に柔軟であるため、インパクト時にクラブヘッドとボールは、あたかもクラブヘッドがそれ自身の慣性の影響のみによって運動しており、自由に飛んでいるかのように反応する。

これは少なくとも、スチールシャフトのように捻れ剛性の高いシャフトで大きく芯を外したショットなどを除けば、全てのショットに当てはまる。こうした状況下でも、シャフトが一切捻れなければ、クラブヘッドとボールの衝突に与える影響よりも、プレイヤーの手の中で捻れてしまう影響の方が大きくなる。

つまり、クラブヘッドにどのようなシャフトが装着されているかを考慮することで、物事を複雑にすることなく、望ましい飛球を実現するクラブヘッドを設計することができる。

ドライバー重量の幅広い選択肢

ドライバーに求められる仕事はボールをできるだけ遠くに飛ばすことである。ゴルフにおけるプレイヤー側、あるいは設計側の要因(打球の角度、クラブヘッドの形など)はひとまず置いといて、クラブヘッドの重量だけに注目すると、ある一定のクラブヘッドスピードの場合、クラブヘッドの重さの違いがボールを飛ばすスピードにどのような影響を与えるかは、表 32 : 2 に示すようになる(クラブヘッドの重さとボールスピードの関係式は付録 I に示されている)。

ボールスピードの増加率はクラブヘッドを重くすればするほど小さくなるが、現実的には、当然クラブヘッドが重くなるほど、ヘッドスピードは遅くなる。このことと、ゴルフに関係する人間的な要素(インパクトで体、腕、クラブシャフトが動くので、スイングで発生するエネルギーの一部を吸収することなど)を考慮すると、かなり合理的な仮定として、一般的なのドライバー(長さ43インチ)の最も実用的なヘッド重量は、現代のドライバーに使用されている7オンス程度からかけ離れているとは思えない。

しかしここで注目すべきなのは、「最適な」クラブヘッド重量はかなり広範囲に分布するということであり、つまり約 5 オンスから約 10 オンスまでの間のどのようなクラブヘッド重量であっても、飛距離においての実用的な違いは見られないと考えられる。

32 : 3 は検証が完全ではないもののある程度合理的と考えられる計算式(付録 I にグラフで示されている)に基づくもので、上手なゴルファーがそれぞれのクラブヘッドを出来るだけ速くスイングした場合の、ヘッド重量と飛距離の関係を表している。

この計算が正しいとすると、かなり衝撃的であるのは、ゴルファーとしての感覚からすれば、1/4オンスでもクラブヘッドの重量が異なれば、飛距離に大きな差を及ぼすと考えるからだ。そこでチームは実験を行うこととした。何人かのゴルファーに依頼して、ヘッド重量が3.5オンスから12.3オンスまでのドライバーを製作してスイングをしてもらい、それぞれのヘッドスピードを計測した。ここから実際にボールを打撃した際の飛距離を計算した。

ここでも、クラブヘッド重量とクラブヘッドスピードの相殺効果によって、5.7オンスから12.3オンスまでの広い範囲で、結果はほぼ同じになった。

これをゴルファーの実際の試打によってテストすることは、普段使用しているクラブのヘッド重量とあまりにもかけ離れているクラブで打撃を行うためより困難を伴った。しかし、スクエアに芯を捉えた打撃で比較をおこなったところ、ヘッド重量が6オンスから10オンス(これにグリップとシャフトの重量を加えると、クラブの総重量は12オンスから16オンスになる)の範囲では、その飛距離に大きな違いは見られなかったのである。

この基本的な発見は、コンピューターでさらに高度な計算をした結果、再度確認されることとなった。

したがって、この範囲内であれば、クラブヘッドの重さを変えることは、他のどんな要因よりも、プレーヤーのスイング、特にリズムとタイミングを最大限に引き出すためにはるかに重要であり、どんなゴルファーも、自分の体力、スイング、タイミングに合っている限り、11オンスから16オンスまでの重さのドライバーを自由に使うことができるのだ。

その重さの範囲内であれば、クラブで達成できるショットの長さで何かを犠牲にすることはほとんどなく、その中でプレイヤーの体力、スイング、また正確性や再現性を追求する中で最適な選択をすればよい。

しかし、事実として、クラブが軽ければ軽いほど、スイングは速くなり、クラブが重ければ重いほど、スイングは遅くなる。テストされたゴルファーの大半は、非常に重いクラブではスライスする傾向があったが、全てのゴルファーでそうではなかったことを付け加えておく。

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