ほとんどのゴルファーは、「マッチングされた」クラブセットの意味を直感的には理解している。セットの中のそれぞれのクラブはできるだけ同じように見えなければならないし、同じように感じられることが望ましい。クラブメーカーは、マッチングされたセット内のすべてのクラブが同じように「感じ」られ、同じようにスイングできるという印象を与えがちである。いっぽうでゴルファーは、そうではないという印象を強く持つことが多い。
いずれにせよ、セット内のすべてのクラブがスイングしたときに同じようなフィーリングになることは良いことなのだろうか?クラブの長さが異なっているのは、クラブの飛距離に差をつけるためであり、また確かに、長さの違うクラブを持つことで、長いクラブで最大の飛距離が得られ、短いクラブで最大のコントロールが得られるということは事実だ。
長さが異なると言うことは、プレイヤーとボールの距離が異なる(ショートアイアンではボールはプレイヤーに近くなる)ということで、これはスイングのプレーンに変化をもたらすことを意味する。つまりショートアイアンではスイングプレーンはよりアップライトになり、このことは一般論としてはよりコンパクトなスイングをもたらす。
ショットのタイプも異なる。ショートアイアンではできるだけ多くのバックスピンをかけることで、高く空中に打ち出される弾道となるが、この際は、ロングアイアンやウッドのような、地面とほぼ平行にスイープするようなクラブヘッド軌道ではなく、ボールに対してダウンブローで打ち抜いていくようなクラブヘッド軌道が求められる。
こうした違いは、つぎにスタンスの幅や開き方、グリップの握り方、全体的なポスチャー、さらにはプレーヤーの心の持ち方など、プレーヤーの多くの側面を左右する。つまり結局のところ、一組のクラブがすべて同じ「フィーリング」であるべきという証拠はない。むしろ、すでに述べたような違いにプレイヤーが何らかの形で対応するために、すべてのクラブが異なるフィーリングであるべきだと主張できる可能性すらある。
ここでの難しさは、「何らかの形で」という表現にある。要は、「どのような方法で」ということだ。ここで発生している多くの要素は、複雑に絡みあい、またそれぞれ独立したものであるために、それぞれのクラブが他のクラブとどう違うべきかを正確に述べることは事実上不可能である。いずれにせよ、正解は人によって異なるだろう。
従い、少なくとも、長いクラブから短いクラブまでフィーリングが一定のフローで変化するような、セット内のクラブをマッチングさせるための、かなり単純化された方法を探す必要がある。
ちなみに、完全にマッチングされていない(例えば、外見が違う、シャフトが違う、重さが違う、クラブによってフィーリングが違う)クラブセットでは、マッチングされたセットよりも安定したゴルフができないのかというと、そのことが正確に実証されたことはない。しかし、そうなる可能性が高いというのは、少なくとも仮説としては妥当であろう。またほとんどの人は、どんな場合でも、そう信じている。
Table of Contents
「フィーリング」はクラブの複雑な特性
では、クラブセットはどのようにマッチングされるべきなのだろうか。まず、「フィーリング」には何が関係しているのかを考えなければならない。これはゴルフクラブでは、主にクラブと両手の間に働く力とトルクの、大きさ、方向、時間による変化に依存する。これらの力は、クラブがどのようにスイングされるかだけでなく、クラブそれ自体の持つ多くの機械的特性にも左右される。
シャフトの柔軟性はひとまず無視して、クラブをワッグルしたり、スイングしたりする時に両手に反応する力は、クラブの重量、グリップする場所を中心とした重量モーメント、同じ点を中心と した慣性モーメントに依存し、おそらく同じ順序で重要度が高い。この2つの「モーメント」については第32章の205ページで説明している。
しかし、ここで注意すべき点は、長さの異なるクラブでは、3つの量すべてが一定ということはありえないということである。これらをどのように変化させるかが、クラブを「マッチング」させる際の問題の半分以上を占めると思われる。
「スイング・ウェイト」経験則的妥協の産物?
ほとんどのメーカーが採用している「スウィングウェイト」と呼ばれるシステムは、クラブマッチングにおいてある種の基本的な方法論を示してはいる。ただしスイングウェイトが意味するものが一体何なのかは、クラブを販売するプロにとっても、それを購入するゴルファーにとっても、またおそらくメーカー自身にとっても明確ではない。我々が考えているよりも遥かに高度な科学的裏付けがあるように思えるとしても、その実態は謎に包まれたままだ。
スイング・ウェイトの仕組みはこうだ。メーカーはクラブを高価なスイングウェイト計測器(たいていアメリカの会社製)にセットして、使用している計測器の表示に応じて、C6やD2、あるいは19.65や20.6といった数字を読み上げる(いずれにせよ意味していることは同じだ)。
ゴルファーなら誰でも、キッチンの重量計と定規を使って、これと同様の計測を行うことができる。スウィングウェイトとは、単にクラブのグリップエンドから12インチの地点を基準とした、クラブの重量モーメントのことである。これを測定するために必要なのは、クラブ重量と、重心またはバランスポイントがどこにあるかということのみだ。
図33:1 一般的な2番アイアンの「スイングウェイト」を計測する方法。このクラブの総重量は15オンスであり、重心位置Gは、グリップエンドからは28.5インチ、また点Pからは16.5インチの位置にあることがわかる。スイングウェイトは単純に、重量15(オンス)X 16.5(Pからの重心の距離)=247.5という数値で求められ、ローリズミック社の換算表(図33:2)に当てはめると「D4」になる。
重心は、通常、ヘッドから1フィートほど離れたところにあり、鋭利なエッジ(木製の椅子の背もたれや指でもよい)を挟んでクラブのバランスを取ることで見つけることができる。典型的な2番アイアンの重量は15オンスで、バランスポイント(図33のG、1)はシャフトの上端から28.5インチになる。
スイングウェイトは、単純にクラブ重量に距離PGを掛けることで求められるが、この場合は16.5インチであった。したがって
15x 16.5=247.5 となり、ローリズミック・スケールの換算表によればD4程度に相当する。科学的な正確さにこだわる人のために言っておくと、この数値を表す単位は「オンス・インチ」であるが、これ以降の本書では数値のみを記載する。
もしこの状態からクラブヘッドから1/2オンスの重量を取り除くと、この瞬間は数値が13減少し、234.5(またはC7)となる。同様に、半オンスを加えれば260.5(またはE0)となる。またグリップに重量を追加することで重心をグリップに近づければ、スイングウェイトを減少させることもできる。
自分のクラブでこのテストを行うことに興味がある人のために、図33 : 2に対応する値を示す。大雑把に言えば、オンス・インチ・スケールの2刻みはローリズムのスイングウェイト・スケールの1ポイントに対応する。例えば246ならD3、238ならC9という具合だ。オンスの4分の1の違いは、ローリズミック・スケールの約2ポイントに相当するので、キッチン・スケールが必要だ(実際の使用上においては、そんな小さな違いは問題にならないだろうが)。
図33:2 ローリズミック社のスイングウェイト計測器の換算表。これを使えばスイングウェイトの確認はキッチンのはかりで簡単におこなうことができる。
さて、このようなスイング・ウェイティングは、クラブを合わせる方法として実際どの程度役に立つのだろうか。答えとしては、ほぼ同じスイングウェイトのクラブが一組あれば、そのクラブを使いこなすにつれて「スイングフィール」が滑らかに変化することは間違いない。
しかし、このことは全てのクラブで同じ「スイングフィール」を得られる、あるいは実用的なゴルフに最適な「スウィングフィール」を得られることを意味しているわけではない。クラブのマッチングには、もっといい方法があるかもしれない。
例えば、慣性モーメントでクラブをマッチングさせてみることもできるだろう。慣性モーメントは、重量モーメント(またはスイングウェイト)よりも、クラブが手首を中心に回転するフィーリングにはるかに大きく影響するはずだからだ。左手がシャフトを握るピボットポイントの慣性モーメントを一致させれば、一般的な効果として、スイングウェイトで一致させた既存のセットよりも、短いクラブを少しずつ重くすることができる。
スイング・ウェイトでは、クラブのトップから12インチのところ、つまり、グリップの足元寄り、手が入る位置よりかなり下の位置で、クラブの重さのモーメントを測定していることを覚えておこう。なぜ、このような一見不適切な点が選ばれるのだろうか?その答えは、推論によると、端から12インチという特定のポイントを選ぶことによって、慣性モーメントによるマッチングと、グリップするポイントに関する重さのモーメントによるマッチングの妥協点に達したということのようだ。つまり、「同じスイング・ウェイト」のアイアン・セットでは、2番アイアンから9番アイアンになるにつれて、平均グリップ・ポイントに関する慣性モーメントは徐々に小さくなり、同じポイントに関するクラブ重量のモーメントは徐々に大きくなる。実際、スイング・ウェイトというのは、かなり恣意的な方法で2つの要素のバランスを取っているようで、クラブの効果的な「スイング・フィール」は、やはり正確にどこを握るかに大きく左右される。例えば、先ほどの2番アイアンの場合、グリップの上部を半インチ(上部のキャップの深さより少し)削ると、スイングウェイトバランスの数値はD4からDOに下がる。
このような形でクラブをスイングウェイトバランスすることが、重量とバランスだけをとっても、「マッチング」セットで本当に必要なものを知るための最良の指針になるのかどうか、極めて疑わしいことに変わりはない。
フィーリングのための柔軟性のマッチング
理想的なクラブ・マッチング・システムにおいて、重量、バランス、長さの問題は、単にすべてのスイング・ウェイトをカバーするものであり、最も重要な要素とは言えないかもしれない。
ゴルファーなら誰でも知っていることだが、長さ、重さ、スイングウェイトなどが全て同じ2本のドライバーを手に入れたとしても、シャフトのフレックスが異なっているなどの理由で、スイングしたときのフィーリングも異なったものになる。クラブの重さや長さがどうであれ、シャフトの性質はスイング時のフィーリングに大きな影響を与える。
シャフトは、さまざまな方法で柔軟性を「合わせる」ことができる。その効果は実に複合的なものになる。本質的なの柔軟性そのものは、シャフトの断面や素材によって変化する。しかし、ヘッドの重さとシャフトの長さも、ゴルファーが「しなり」として感じているものに影響を与える。このように複合的に発揮される柔軟性の効果は、クラブのフィーリングに非常に大きな影響を与えている。従って、複数のクラブ間におけるスムースな変化をもたらすという目的のみであるとしても、この複合的な効果についてシャフトを一致させようとすることは、おそらく価値があるはずだ。
そのためには、シャフトの柔軟性を測る 2 つの明確な尺度を使うことができる。一つは、グリップをクランプした時にクラブヘッドに標準的な力(例えば、1ポンド)をかけた時に生じるたわみで、これはセット全体を通して均一にすることができる。しかし、これでは手にかかる反作用の力を知ることはできない。より良い方法は、クラブをグリップで固定し、振動させ、その振動数に応じてセットをマッチングさせることで、これで重量、長さ、硬さを複合的に判断したことになるからだ。
この記事を書いている時点では、実際、この可能性を検討しているメーカーもある。スイング中、手はクラブを完全に「クランプ」することはできないため、クラブの振動数は異なっているはずだ。とはいえ、この方法でマッチングさせれば、シャフトの特性を、セット全体を通してスムーズに変化させるという最低限の要件を満たすことはできるだろう。