ロフトがインパクトに与える影響

クラブヘッドによる理想的なスクエアインパクトについての議論を行ったので、次にゴルフショットにおける現実的なインパクトの環境について考えてみたい。まず、ボールに実際に与えられる「打ち出し角度」、つまり空中のどのポイントを目指してボールが打ち出されるのか、次に大気中をボールが飛行中にその状態を維持しようとすることに影響するバックスピンと、スピンが全くかかっていない状態のボールと比較して二倍から六倍のキャリーを得られるという現象についてである。

ロフトのついたゴルフクラブを見れば、そのような道具でスクエアに打撃を行うことは不可能であり、斜めに打ち出すことしかできないことがわかる。

ゴルフ界では常に、また本書においてもこれまでの各章で、ボールを「スクエア」に打撃することの重要性を説いてきた。ほとんどの場合において、これはクラブヘッドがボールとのインパクトに向かう際に、上空から見て「スクエア(真っ直ぐ)」ということであって、狙った方向に対してボールの打ち出しをスクエアにする、あるいはスイングのヘッドパスをスクエアにする、あるいは理想的にはその両方を意味する。

本章ではこれまで、「完全にスクエア」なインパクト、つまりどのようなアングルから見ても、クラブフェースがボールの打ち出し方向に対してスクエアなインパクトについて議論を行ってきた。しかし通常のゴルフでは、ゴルファーに対して水平方向で正面から見た場合、打撃は決してスクエアにはならない。クラブのロフトは目標方向の充分に上空を向くようにフェースを後方に傾けている。

こように上空を向いた状態で傾いたフェースでボールを打撃する場合、本章で見てきた完全にスクエアな打撃では起きることのない、以下三つの現象が発生する。

  1. 打撃はボールにバックスピンを与える。 ロフトが多いほどバックスピンが多くなる。
  2. 20 章で説明した通り、打撃が斜めになることで、クラブヘッドの運動量の一部しかボールを前方に飛ばすことに寄与できなくなるため、ボール初速が低下する。 ロフトが大きいほど初速の低下は増大する。
  3. クラブヘッドが移動する方向よりも、遥かに高い上空方向にボールが打ち出される。ロフトがあるほど、打ち出し角度も高くなる。

ロフトのあるインパクトにおけるボール初速とスピン

ロフトのあるクラブによるインパクトでは、フォースは単純な一つのものにはならず、クラブフェースとボールがスクエアであれば、クラブフェースに垂直な方向にフォースは作用する。さらにボールとクラブフェースの間に斜めに作用するフォースが発生する。実質的にはインパクト時には互いに直角に作用する、二つの成分があると見なすことができる。

クラブヘッドがボールに向かう速度は、クラブフェースに直角な「垂直成分」と、フェースに平行な「軌道接線成分」の二つの成分で構成されていると考えることができる。

23:3 クラブヘッド速度を二つのベクトルに分解したもの。地面に平行に時速100マイルで移動している、ロフト30°のクラブヘッド(5番アイアン相当)は、二つの速度の合力である、クラブフェースの正面方向への速度である87マイルがボール初速にメインに影響を与えるが、クラブフェースと平行方向に発生している50マイルの速度は、ボールに与えられるバックスピン量と、ボールの打ち出し角度に影響を与える(23:4の図を参照のこと)。長方形の二辺の長さおよび、斜線の長さは、速度を表している。

23:3の図で、クラブヘッドの速度が時速100マイル、クラブのロフト角度が30°であるとすると、ボール速度の二つの成分は、フェースの直角方向におよそ時速87マイル、またフェースの平行方向に時速50マイルとなる。

インパクトでは、スクエアコンタクトで既に説明した圧縮とリバウンドの弾性プロセスが同様に展開されるが、クラブヘッド速度の垂直成分の大きさによって支配されるため、完全にスクエアなインパクトの場合と比較して、その初速は低くなる。

この際にクラブフェースとボールの接触面が科学的な意味で完全に滑らかであれば(摩擦がゼロであれば)、これがロフトの唯一の影響となる。つまりボールはやや減少した速度で打ち出され、ボールにスピンは発生せず、30°のロフトのついたフェース面に完全に直角奈方向に打ち出されるため、ボールの仰角は30°となる(図:23:3)。

しかし実際にはボールとクラブフェースの間には摩擦が存在するため、その摩擦力はクラブフェースの平行方向にフォースを発生させる。このことはボールに二つの効果をもたらす。一つはボールにスピンを与えること、もう一つはクラブフェースの向きに対して、やや下方に打ち出し角度を下げることである(図23:4)。従い、ボールは常に、クラブヘッドの移動方向と、その際にフェースが向いている方向の間のどこかの仰角で打ち出されることになるが、通常はフェース向きの方にかなり近くなる。

23:4 なぜボールの打ち出し角度がクラブのロフト角より低くなるのかについて。クラブフェースに平行方向に発生する速度(図23:3では時速50マイル)は、ボールとクラブフェースの間に摩擦力を発生させる。このフォースはボールにバックスピンを与えると同時に、クラブフェースの向いている方向よりも打ち出し角度を下方に向けるフォースを発生させる。個々でも23:3と同様、それぞれの矢印の長さが発生しているフォースの大きさを表している。

要するに、ボール初速、バックスピン、打ち出し角度は、かなり単純明快に相互に関連しているということがわかる。どのようなインパクトであっても、クラブロフトが大きいほど、ボールの初速が遅くなり、バックスピンが増え、打ち出し角度が高くなるが、クラブのロフト角それ自体に到達することは起きないということを理解するのは難しいことではない。

これらの効果は、図23:5にあるとおり、ここでは様々なロフトの7オンスのクラブヘッドで、ヘッドスピード時速100マイルで打撃を行った実験の結果に現れている。当然、この図が指し示すとおり、サイドスピンを発生させるロフト打撃において、ここまでの議論が常に同様に応用できることがわかる。例えば、フェースの向きとクラブヘッドの移動方向が近くなっていくドライバーの例を見ても、ボールはクラブヘッドが移動している方向よりも、フェースが向いている方向に近いところに打ち出されている。ここでの数値は単純化された実験の結果であり、これまでに議論された他の要素にも影響を受ける。

23:5 同じ重量(7オンス)、同じヘッドスピード(時速100マイル)のクラブヘッドで、ロフトだけを変えた際の飛球への影響について。実際には重量7オンスでヘッドスピード時速100マイルでスイングされるのはドライバーだけであるため、ここでの数値は通常のゴルフクラブで打撃した数値とは異なる。

スピンの応用における詳細な研究

まず重要な要素として考えられるのは、ボールとクラブフェースの表面の摩擦力である。クラブフェースの摩擦が強い程、ボールの打ち出し角度は、クラブヘッドが移動している地面方向への角度に引き下げられる。しかし、ゴルフ界で長く伝承されている説とは異なり、クラブフェースの摩擦力が強いほど、必然的にボールに与えるバックスピン量が増えるというのは真実ではない。

なぜそうなるのかについては少し説明が必要になるが、それはクラブフェースのインパクトによってスピンが生み出される方法に由来する。

ロフトのあるクラブでボールを打撃する際、ロフトについて考える限り、インパクトは少なくとも二つの独立した段階、スライドとローリングを迎える。その順序は以下の様になる。

  1. スライドがロールに転化される
    ボールがクラブフェースの上面へとスライド(滑る)すると同時に、ボールがつぶされる。この時点より、ディンプルのあるボールと、摩擦力のある、あるいは溝を切ったクラブのフェース面の間に発生する摩擦が、スライドをバックスピンに転化しはじめる。
  2. 純粋なバックスピン
    ボールは一瞬でスピンの最高速度に達し、完全にスライド(滑り)を停止し、転がるだけになる。この時点よりボールが完全にクラブフェースから離れて打ち出される瞬間まで、スピンの速度は低下していく。

ボールが強く押しつぶされている状態における、ボールのスピンへの抵抗について多くのことが判明しているわけではないが、チームが行った低回転の状態における実験の結果は、それが非常に大きいものである可能性を示していた。その場合スピンの減速は非常に急速なものとなる。

このロフトインパクトとスピンの反応における段階の移行は、実はロングパットの際のボールの転がりのステージ移行(第二十一章)の際に起きていたことと似通っている。パッティングの際も、ボールは当初グリーン面の上を滑り、滑りながら転がる段階を経て、グリーン上を横切るボール速度に滑りながら転がる回転の速度が追いついた瞬間に最速で転がり、その直後にボールの減速を始める。これはビリヤードのボールでも同様の現象が見られ、ボールのちょうど赤道部分をキューで突かれたボールは、テーブル上を滑っていく。

ゴルフにおける、ロフトの付いたクラブでの打撃においては、これら四つのステージはボールの1回転の1/4未満の範囲で発生している。しかしそれらが同じ順序で発生しているという事実に何ら影響を与えるものではない。実際にはボールの形状が大きく変化をするということに関連して、別のステージが存在するという可能性はあるものの、ここで言及した二つの要素、スライドとスピンについては議論を続行するのに充分である。

バックスピンはクラブフェースの摩擦力に影響されない

しかし、ボールとクラブフェースの全体的な関係について言えば、ある一つのかなり奇妙な事実が存在する。

完全に摩擦力のないクラブフェースであれば、ボールは最後までスライドを続けるため、スピンがかかり始めることはないはずである。そして我々が想像のとおり、クラブフェースの摩擦力が強いほど、より早い段階でボールのスライドが停止すると同時に転がり始め、最終的に完全にスピンになる。

しかし、この瞬間におけるスピンの速度(その直後から減少し始める)は、そこに到達するまでの時間に何ら影響を受けるものではない。これはパッティングの際にグリーン上を移動するボールに起きている現象(第21章)とまったく同様である。より摩擦力のあるクラブフェースは、純粋なスピンを始めるステージにより速く到達するが、スピンの最高速度には何も追加されないため、単にクラブフェースを離れるまでの間にスピンの速度が減少する機会を長く与えるだけになる。

このことは多くのゴルファーは驚かせる可能性があることを意味する。ボールがスライドを止めるまでにかかる時間についてはまだ正確にはわかっていないが、少なくともロング、ミディアムアイアンにおいては、ボールが圧縮されて再び形状を復元してクラブフェースから離れ、空中に打ち出され始めるまでの合計時間よりも短い可能性が高い。これらのことが意味することを簡単に言えば、アイアンのクラブフェースの摩擦力を大きくすることは、ゴルファーがボールに与えられるバックスピンの量を減らすだけであるということである。

おそらくはロフトとプレイヤーのヘッドスピードに応じて、それぞれクラブのフェース面の理想的な摩擦量が存在するものと思われる。

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