第三十章 トーナメントの分析 ショートアプローチ

バークデールで収集されたデータの分析にあたり、チームは次にプロが短いアプローチショットをどの程度うまく打っていたのかを研究した。ここでいうアプローチとは、カップまで10ヤードから70ヤードまでの距離で、パター以外のクラブで打つショットのことを指す。

まず驚いたのは、マスターズクラスのプロでさえ、この距離から打つストロークが、アマチュアゴルファーが想像するよりもはるかに多いということだ。当然平均的なハンディキャップのアマチュアは、こうしたアプローチショットをすべてのホールで1回、あるいは2回ショットしなければならない可能性がある。また、ハンディキャップの低いプレーヤーであっても、パーオンでグリーンを捉えるよりも、チップショットの貢献で70台のラウンドを達成することができる。両者とも、ショートアプローチショットがスコアメイクに欠かせないストロークであることを知っている。

2ホールに1

その双方のレベルのプレイヤーが、トップクラスのプロであれば、少なくとも4回に3回はパーオンしていることを想像するかもしれない。しかし、今回調査したホールでは、通常のファーストショットやセカンドショットでグリーンを狙える範囲にあるホールばかりであるにもかかわらず、プロは、平均して、ほぼ2ホールごとに1回、この短いアプローチショットを打たなければならなかった。

30:1 は、これらのショットがどのようにプレーされたかを示している。

この集計では、低木、茂み、非常に長い芝生は「ヘビーラフ」としてカウントされた。このカテゴリーに入るストロークはごく少数であった。この表にはこれらのストロークも含まれているが、分析をシンプルにするために、これ以降のバークデールの統計のこの分野の研究からは除外した。

どれくらいの距離からどれくらい寄せたか?

30 : 2 は、プロがフェアウェイの、様々な距離から短いアプローチショットを打った時に、平均してカップにどれだけ寄せたかを示している。これは、ラフやバンカーなどの悪いライに影響を受けない、彼らのショートアプローチの標準としての、基本的なイメージを示している。

次の表(30 : 3)は、「ヘビーラフ」ではないラフから打ったショットの精度がどれほど低かったかを示している。読者の皆さんもお分かりのように、フェアウェイ外のライから打つと、プロのショットの精度はかなり違ってくる。

バンカーからのショットは、表304で示されているように、さらに不安定であった。バークデールの統計から証明されたのは、プロのバンカープレーは決して簡単なものではないということだった。

実際、表からわかるように、プロはバンカーからよりもラフからのプレイの方が得意だった。30ヤード以内のバンカーからのショットは、平均してホールから15フィート以上離れており、次のパットを確実にカップインさせる可能性にはほど遠かった。実際にこの範囲から2打でホールアウトしたのは3回に1回程度である。この距離のバンカーショットがピンデッド、つまり1ヤード以内に付けられたのはわずかに12回に1回という確率で、一方、フェアウェイのライで同じ距離から打つと、平均して3回に1回以上、1ヤード以内にボールを入れることができた。

これは、「プロゴルファーにとってグリーンサイドのバンカーから打つのと芝生から打つのとでは、難易度はほぼ変わらない」という、かなり広く信じられている説と矛盾する。またバンカーの性質(砂の状態だけでなく、配置、デザイン、構造など)に大きく左右されることも明らかである。

「中央値」の比較

以下の最終的なパーセンテージは、今回の統計の結論をどのような数値よりも鮮明に示している。このパーセンテージは、様々な距離から打ったショットの遠くに止まった半分と、近くに止まった半分の残り距離を比較して算出したものである。これはフィニッシュ距離の「中央値」と呼ばれるもので、通常の「平均値」とは少し異なる。例えば、表30 : 2で、20ヤードから30ヤードの距離からプレーした48のアプローチを見ると、半数(24)がホールから2ヤード以内にフィニッシュし、残りの半数はそれよりも遠くにフィニッシュしていることが分かる。従いボール停止位置の「中央値」はこの場合2.0ヤードということになる。

「中央値」は、「平均値」が極端な1つか2つの異常な結果(この場合は数個の非常に悪いショット)によって不当に影響されることを排除できる点で、ときにより実態を表した有用な数値となる場合がある。表の同じ欄にはこの例が示されている。1つの極端なミスショットによって「平均」フィニッシュ距離は2.14ヤードから2.36ヤードに伸びたが、「中央値」は1.97ヤードから2.00ヤードにしか増加しなかった。

つまり、どのようなライからの場合でも、ホールからのフィニッシュ距離の中央値は、そのショットの長さに関係なく、ほぼ一定の精度でショットされていることになり、バークデールのプロたちのショートアプローチの統計をまとめると、このようになる。

スタート地点からカップまでの距離に対するフィニッシュ地点の距離の中央値は、以下の通りであった。

フェアウェイから 7.8%100yのショットであれば残り7.8y

ラフから 12.3%

バンカーから 15.8%

30 : 5は、これらの数値(フェアウェイとラフのみ)が、サンドウィッチのシュウェップス・トーナメント、バークシャーのアマチュア、ヘイリングのレディースで計算された同じショット数の統計と比較したものである。

この表の数字は、各コースの難易度の違いを充分に考慮して解釈されるべきである。これは常にある程度意見の分かれるところではあるが、研究チームは、サンドウィッチ(4月)のグリーンはバークシャーもしくはバークデール(6月)のグリーンよりもかなりアプローチが難しく、ヘイリング(5月)はその中間の難易度だと判断した。

数値の上では、サンドウィッチのグリーン付近のラフからのショット精度は、フェアウェイからの場合とほとんど違わないが、バークシャーのグリーン周りのラフはほとんどがヒース(芝桜に近い)で、そこからどのようにボールコンタクトをさせるかの判断が難しいことで有名である、そしてバークデールは他の2つの中間の難易度であった。

パッティングでもそうだが、レディースのショートアプローチは、コンディションの違いを考慮しても、メンズに比べてかなり劣っていることになる。表の実績から具体的な例を挙げると、40ヤードの距離からフェアウェイライでプレーした場合、レディースはショットの半分をホールから7.5ヤード以上離しているのに対し、バークデールのプロは同じ距離からショットの半分をホールから3ヤード以内に置いている。つまり、バークデールのプロは、100ヤードからのショットの精度が、レディースの40ヤードからのショットとほぼ同じだったことになる。

一方、グリーンへのロングショットでは、次章の分析によると、レディースはメンズに比べてほんの少し精度が低いレベルにとどまっている。実際、この本で最も重要な結論は、チャンピオンを目指す女性ゴルファーにとって、ショートアプローチは女性ゴルファーにとって最も苦手なショットであるということであろう。少なくとも、ヘイリングで開催された英国女子選手権に出場した選手たちのプレーが、一流のレディース・ゴルフの技量を代表していると考えるならば、これは事実といえる。

バークデールでのプロのプレーを参考にし、平均値ではなく「中央値」という考え方で、上位9人と下位9人のプレーを比較すると、3種類のライからのショートアプローチのプレーの水準には大きな違いがないことがわかったのである。つまり、トップ9はボトム9に対して、このカテゴリーにおいては何ら差を付けることができなかったということになる。

ショートゲーム練習の価値:思ったより少ない?

 結局のところ、ショートゲームはスコアにどの程度影響するのだろうか? あるいは科学者たちは、「もし、プロが他の部分を変えることなく、ショートアプローチのプレーの水準を上げることができたとしたら、そのことは彼らのスコアにどのような影響を与えるだろうか」と考える。

ここで、パッティングの時に評価したのと同じような劇的な改善、つまり、どんな距離からでも、実際の半分の距離から打ったのと同じようにホールに近づけるという能力を例として取り上げることにした。もし、プロがこのような改善を達成できれば

フェアウェイとラフからのショートアプローチで、1ラウンドあたり1.2ストロークをゲインできる。

同じ距離のバンカーショットでは、1ラウンドあたり0.5打のゲインになる。

この2つを合わせると、1ラウンドあたり1.7ストロークのゲインになる。

しかし実際にはこれらのショットでゲインできるショット数はもう少し少なかったかもしれない。というのは、今回の観測において設置された1000箇所の観測地点のうち、960個のポイントはセカンドショットがグリーンを充分に捉えられるものだったからである。残りの40箇所は16番パー5で、二打目でグリーンを狙うことができないホールであるため、必ずショートアプローチが必要となるホールであった。

よってショートアプローチでゲインできるショット数は、1ラウンド当たりで2打を超えることはほぼ不可能であり、よって標準的なショートショット能力を持つプレイヤーが、驚異的なレベルまでその能力を改善したとしても、それ以上の効果を期待することはできない。というのも、トーナメントプロの標準的なショートショットの能力は、一般論として既にかなり高い水準にあるからだ。

このことはかなり明白で、ショートアプローチを集中的に練習することは、トップクラスのプロのスコアを減らすことに多大な貢献をするとは考えられず、それは第一にそのプレイヤーは既に高い水準のショートショット能力を身につけているからであり、第二にそのようなショットをすることは1ラウンドあたり9回未満しかないからだ。

その一方で、これが20ヤードから3回でショットすることが2回でホールアウトできる回数よりも多い、あるいは全てのラウンドにおいてプロが試みるよりも遥かに多くのショートアプローチの機会があるアマチュアの場合となると、話は大きく変わってくるかも知れない。

もちろん、これは仮説に過ぎない。ただ科学者の目線で確実に言えることは、バークデールでプレイするプロにとって、パッティングの練習に時間を費やすことは、ショートアプローチの練習に時間を費やすことよりも、その時点のプレイヤーのスコアを1打でも多く減らすのに有効であると考えられるということだ。

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